ロシアのウクライナ侵攻が始まって2カ月たち、多くのウクライナ人女性や子どもたちが言葉も通じない国での不安な日々を過ごしている。難民を受け入れる周辺国ではできるだけの支援をと心を砕いて環境を整えているが、トラブルが目につき始めているようだ。特に、ウクライナ難民を優遇する制度に対しての不満が、徐々に人々のなかに積もり始めている。オーストリア、デンマークに在住のライターから現状を伝えてもらった。

(上)ウクライナ難民8割が女性 受け入れ国でのトラブル急増
(下)「ウクライナ難民は優遇されてる」他国難民の複雑な思い ←今回はココ

ウクライナ人難民と、第三国出身者で大きな格差

 オーストリアでの難民滞在許可を巡って、疑問の声が多く聞かれる。今回ウクライナ難民には、本来高度な知識を持った専門家に発行される「EUブルーカード」が特別に発行されて滞在が許可されている。侵攻開始から約1カ月半で、約4万3000人にEUブルーカードが発行され、約3万4000人に既に送付済だ。

 ただし、ウクライナで生活をしていた第三国出身者は、今回ウクライナ人と同じように避難して来ていてもウクライナ人と同じ待遇は受けられない。

 ウクライナで大学に通っていたチュニジア人学生は、ポーランド経由で叔父のいるリンツに逃げてきた。到着後、地元警察に滞在申請に行ったところ不法入国者として24時間拘束され、パスポートも取り上げられたという。

 オーストリア内務省は「第三国の国籍を持つものは、自分の国に帰らないと違法」というが、彼の弁護士は「人道的理由で逃げてきた人は、拘束や書類の没収という制裁を受けるべきではない」とコメントを出している。ドイツでは彼と同じような立場の第三国出身者でも、ウクライナ難民と同じ待遇を受けられているようだが、オーストリアではまだウクライナから逃げてきた第三国出身者への対応が決められていない。

 ウクライナ難民は、就労許可も付いている滞在許可がスムーズに発行され、住居の斡旋や生活費などの補助制度も整っている。一方、既にオーストリア滞在中の外国人が滞在延長を申請しても1年以上滞在許可が下りないケースや、EUを離脱したイギリス国籍の人がそれまでオーストリアで仕事をしていたのに帰国しなければならなくなったケースなども多い。以前からオーストリアに滞在している外国人、ウクライナから逃げてきた第三国出身者への待遇差は歴然で、多くの疑問の声が上がっている。

ウィーン国立オペラ座には「PEACE」のサインがともる
ウィーン国立オペラ座には「PEACE」のサインがともる

 同じ難民でも、2015年に大量発生したシリア、アフガニスタン、イラクなどからの難民は同じ待遇ではなかった。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR )によると2020年に全世界で戦争や迫害などで移動を強いられた人は8240万人、そのうち難民は2640万人で、シリア(680万人)、ベネズエラ(490万人)、アフガニスタン、南スーダン、ミャンマーの5か国で全体の68%を占めている。他にも、1948年以降発生したパレスチナ難民は650万人とも言われている。30年以上、パレスチナ難民問題や中東の人権問題を扱ってきた国際弁護士も「全ての難民は同じ権利があるはずだ」と訴える。