田代 はい。ヘッドハントが前提の米国型とは全く違うモデルでの人材育成が日本では必要だと思います。相当の投資が必要になりますが、男女問わずライフイベントをサポートしながらキャリア継続できる組織が確立できたら、非常に強い組織になるはずです。

白河 それは田代さんの代で達成されそうでしょうか。

田代 私ももう55歳ですから、どうでしょうか(笑)。ただ、それを目指すスピリットは言い続けたいと思っています。

白河 方向性を示すということですね。しかしながら、女性を引き上げるためのメッセージを発信すると、「男性に対して不公平じゃないか」という反論が必ず出てきます。

田代 「よく言うよ」と言いたくなりますね。女性というだけで評価されていなかった時代をよく知っている立場からすると。鏡を見せてあげたいです。

白河 女性活躍企業とうたっていても、見せかけのところも多い。大和証券はかなり進んでいる事例だと思いますが、日本の伝統的な企業が変化するのは難しいと思いますか。

田代 各社が長年築いた文化もあって、簡単ではないと思います。でも、時間はかかっても継続すれば確実に変わります。私も1986年に入社して33年働いた間に、ものすごく会社の環境は変わったと実感していますから。

白河 一番変化を感じるのはどの部分ですか?

田代 「25歳で寿退社」の時代から、「育休復帰率9割超」の会社へ。この変化だけでも隔世の感があります。最近は男性の働き方も少しずつバリエーションが出てきました。

白河 やはり企業が社会に果たす役割は大きいですね。

田代 「大企業だから余裕があるんだよ」と言われればそうかもしれません。しかし、もしどこかにしわ寄せがいっているのであれば、それは国もサポートしていただきたい。それは国の役割ではないかと私は思います。

白河 最後に、後に続く女性たちに向けてのアドバイスとしてお願いします。意思決定層として会議に出席できる立場になったとき、振る舞いとして心がけてきたことはありますか?

田代 これは会議に限らず、社外のお客さんにも言うことですが、無意識に表れる偏見を感じ取ったら、その場ですぐに指摘するようにしています。「今のお話、相手が男性という前提でお話しされていましたが、男性とは限りませんよね?」というふうにサッパリと。悪気はないとは分かっていますが、言わないと気づかないので。意識を変えていくには、そういう小さな働きかけが、ジワジワと効いていくのではないかと思っているんです。

白河 これは男性が多い場所で発言する女性すべてに良いアドバイスですね。私も男性が圧倒的多数の会議に出ることが多いので、心がけます。ありがとうございました。

取材・文/宮本恵理子 写真/洞澤佐智子