【感染経路】注意が必要なのは「接触感染」と「飛沫感染」

 予防対策を考えるために最も重要なのは、新型コロナウイルスがどのようにして人から人へと感染するかを知ることです。一般に、病原体の感染経路として想定されるのは、接触感染、飛沫感染、空気感染、媒介物感染の4つです。

 現時点では、日常生活の中で、新型コロナウイルスが空気感染する(空気中を漂う微細な粒子を吸い込むことにより感染する)ことを示す確かな情報はありません。注意が必要なのは、接触感染と飛沫感染です。これはインフルエンザウイルスと同様であるため、ここからは、インフルエンザ予防に関する情報も利用して説明します。

 政府広報オンラインに、インフルエンザの飛沫感染と接触感染の具体的な例が示されています。ここでは、

飛沫感染
感染者のくしゃみや咳、つばなどの飛沫と一緒にウイルスが放出される
→別の人がそのウイルスを口や鼻から吸い込み感染する

接触感染
感染者がくしゃみや咳を手で押さえる
→その手で周りの物に触れて、ウイルスが付く
→別の人がその物に触ってウイルスが手に付着
→その手で口や鼻を触って粘膜から感染

と説明しています。

 飛沫感染と接触感染を防ぐためには、「ウイルスを含んだ飛沫を浴びない」、「ウイルスが付いたものを触らない」「触った手で口や鼻などの粘膜を触らない」、そして、「こまめに手洗いと消毒をする」ことが重要です。

 なお、2020年2月8日に、上海市政府が開いた新型コロナウイルスに関する記者会見で、「このウイルスの感染は、主に直接伝播、エアロゾル伝播、および接触伝播によって広がっている」との見方が示されましたが、中国疾病対策予防センター(CDC)は「新型ウイルスがエアロゾルを介して伝染するという証拠はない」とこれを否定。エアロゾル感染については、こちらの関連記事で詳しく解説しています。

接触感染を防ぐには、こまめな手洗いや消毒が大事。(C)Boris Bulychev450-123RF
接触感染を防ぐには、こまめな手洗いや消毒が大事。(C)Boris Bulychev450-123RF

【日常生活での感染予防策】ウイルスを自宅に持ち込まないために、玄関先で手指だけでも消毒を

 では具体的に、日常生活での感染予防策を考えていきましょう。

 私たちは、家の外に出れば、様々なものに手を触れざるを得ません。電車やバスのつり革、ドアノブ、スーパーのかごやカート、エレベーターのボタン、エスカレーターのベルト、ATMの画面、人の手から手へと移りゆく紙幣やコインなど、手を触れるすべてのものに、感染者の口から飛び出した飛沫が付着している可能性があります。こうしたものに触れた手を、無意識のうちに口や鼻に持っていって触ることで、ウイルスが体の中に入ってしまいます(接触感染)。

 このような接触感染を防ぐには、こまめな手洗いが大切です。新型コロナウイルスにはアルコール消毒が有効とされています。外出から帰ったら、手をしっかり洗ってアルコール消毒をしましょう。ウイルスを自宅に持ち込まないためには、玄関先で手指だけでも消毒しておくとよいでしょう。靴を脱ぎ、最初に手を洗いに行ったとしても、洗面所のドアのノブや水栓には触れざるをえません。石鹸で手を洗った後にそれらを触れば、ウイルスが手に戻るかも知れません。ウイルスや飛沫が目に見えないからこそ、想像力を十分に働かせる必要があります。外出先でも、消毒用のアルコールを携帯して使用すれば、手荒れはしても、感染リスクは下げられます。

 手洗いに気を付けていても、近くにいる誰かが咳やくしゃみをして、そのしぶきと共にウイルスを吸い込んでしまうかもしれません(飛沫感染)。例えば、電車の中で座席に座っている状況を考えてみましょう。隙間のないようマスクをし、スマートフォンや本を手にして乗車している数十分のうちに、近くに立っていた感染者が、咳エチケットを守らずに(マスクやハンカチなどで鼻と口を覆わずに)くしゃみや咳をした場合、何に気を付ければ感染せずに済むでしょうか。

 近くの人から飛び散った飛沫は、自分の髪、顔や手の皮膚、マスク、衣類、スマートフォン、本、バッグなどに付着している可能性があります。イヤフォンやヘッドフォン、ノートパソコンを使用していれば、それらの表面にも飛沫は存在するでしょう。それぞれの表面で、新型コロナウイルスがどれくらい感染力を維持しているのかは現在のところ不明ですが、インフルエンザウイルスの場合には、2~8時間と言われています(国立感染症研究所感染症情報センターホームページによる)。

 飛沫を直接吸い込んでしまうと、感染を防ぐことは難しくなりますが、飛沫が物に付着していた場合、それらが手指を介して眼や鼻、口の粘膜に至らないようにすることが何より大切です。できるだけ速やかに正しい手洗いをすること、その後も、シャワーを浴びるまでは、手で目や鼻をこすらず、食べ物をつまんで口に入れないことを肝に銘じましょう。