年齢とともに「口臭が気になる」「歯と歯の間にものがはさまりやすい」といった口内の変化を感じる人は少なくありません。実は、歯や口の中の状態が悪くなると、健康面はもちろん、美容面でのリスクも高まります。そこで、人と接する仕事に就いている日経xwomanアンバサダーの千森麻由さんと、同じくアンバサダーであり、歯科・口腔(こうくう)の専門家である照山裕子さんに、それぞれの立場から気になる口内環境や効果的なケアについて語ってもらいました。

ARIA世代は口内環境の大きな転換期

 千森麻由さんは、パラグアイの伝統的なレース刺繍(ししゅう)を教える講師と、多国籍料理店のオーナーシェフという2つの顔を持っています。

「どちらも接客業ですので、とくに口臭に気をつけています。人と話をしているときに、“この方は歯周病なのでは?”と感じることがあり、もしかしたら自分も臭っているかもしれないと気になりますね。こまめに水分を摂(と)ったり、講座の前は必ず歯磨きしたりと対策しています」(千森さん)

千森麻由さん●南米・パラグアイの伝統レース刺繍「ニャンドゥティ」の教室を開くとともに、約65カ国を旅した経験から多国籍料理店を経営し、シェフを務める。プライベートでは1女1男の母
千森麻由さん●南米・パラグアイの伝統レース刺繍「ニャンドゥティ」の教室を開くとともに、約65カ国を旅した経験から多国籍料理店を経営し、シェフを務める。プライベートでは1女1男の母

 また、年齢を重ねるにつれ、「歯と歯の隙間が開いてきている」感覚があり、就寝前の歯磨きには必ず歯間ブラシを使用。さらに、半年に1回は歯科医院で定期検診をしているそうですが、「日々積み重なっていく口内の汚れが、日常のケアできちんと取れているかどうか」が気になるそうです。

 口内環境を良好な状態に保つことはARIA世代にとって難題ですが、そもそも40~50代にはどのような口内リスクがあるのでしょうか。

 オーラルケアの重要性を積極的に発信している歯学博士の照山裕子さんは、「まず、女性は男性に比べて、生涯を通じてダイナミックに口内が変化することを認識してほしい」と言います。

「個人差はありますが、思春期に女性ホルモンの増加にともない歯肉炎が進む人もいますし、妊娠・出産時にホルモンバランスの影響で口内が劇的に悪化する場合もあります。更年期を迎える40~50代になると、唾液が出にくくなります。唾液は歯の表面を修復したり、細菌などから口内を守る、いわば天然のシャワー。これが減ると歯周病ほか、さまざまなトラブルを招くことになります。とくに、歯周病が進むと歯を支える歯茎や骨が弱るため、歯と歯の間に隙間ができやすくなることも。まさに、40~50代はお口の転換期といえます」(照山さん)

加齢とコロナ禍のダブルパンチで悪化の一途に

 口内環境の変化は、健康にも影響を及ぼします。照山さんによると「口の中は、実に100を超える疾患とリンクしているといわれている」のだとか。

照山裕子さん●歯学博士。頭頸部(とうけいぶ)領域の腫瘍や外傷・先天性疾患により失われた組織を美しく機能回復させる『顎顔面補綴(がくがんめんほてつ)』を専攻。口元のアンチエイジングや予防医学の重要性を提唱している
照山裕子さん●歯学博士。頭頸部(とうけいぶ)領域の腫瘍や外傷・先天性疾患により失われた組織を美しく機能回復させる『顎顔面補綴(がくがんめんほてつ)』を専攻。口元のアンチエイジングや予防医学の重要性を提唱している

「口内環境が悪化すると生活習慣病を招きやすくなり、歯周病の進行と糖尿病、脳梗塞、心筋梗塞、認知症、がんなどの病気が関連していることがわかってきています」(照山さん)

 健康だけでなく、口内の状態は「見た目」も左右します。

「食物を噛(か)んだり飲み込んだりする機能が加齢により低下した状態、いわゆる“オーラルフレイル”になると、適切な栄養が摂れなくなりますから、肌のハリやツヤなどに関わってきます。また、食べ物をしっかり咀嚼(そしゃく)し、ごくんと飲み込む。この一連の動作では多くの筋肉を使うわけですが、これを省略してしまうとたるみの原因になりますし、片方でしか噛めない状態だと顔にゆがみも出る。歯や口が機能しないと、老け顔になりやすいといえます」(照山さん)

 さらに、加齢に限らず、「コロナ禍のマスク生活が、全世代の口内環境を悪化させている」と警鐘を鳴らします。

「マスクの中では口を開けている人が多く、口元の筋肉が緩むことに加え、唾液が蒸発して口の中が乾燥しやすくなります。すると口臭が強くなりますし、唾液の免疫作用も期待できず、歯周病が悪化するなどさまざまな問題を引き起こします。実際に、口臭が気になるという患者さんは多いですね。また、コロナ禍で子どものむし歯が増えていますし、定期検診を控えていた大人に隙間むし歯が見つかるケースもあります」(照山さん)