「手術の後、今まで以上に仕事にまい進しました。がんで一度は『もうだめかも……』と死を覚悟する経験をしたので、何かに夢中になりたい、という思いがますます強くなりました。もともと面白がって仕事をやるタイプ。当時は本も売れる時代だったので、仕事のしがいがあったのね」

 当時は、日付が変わる前に帰宅した記憶はないと鈴木さん。「ろくな妻ではなかったかもしれない。でも夫が何かを言うことはありませんでした」

70~80歳が実る時期。苦しいことを体験したからこそ成長できる

 あるとき、子どもがいない人生に向き合おうと決めてからは、つらい気持ちを家族や友達に相談したり、日記やメモで吐露してみたり。「今回、皆さんの前で自分の過去について話したのも、自分が成長する一歩になったと思っています」

 「ふさいでいた気持ちを少し吐き出すことで、『しゃべってくれたわ』『気遣ってくれたわ』と、自分のなかの自分が喜んでいる感じ。自分を見つめることで、ほんの一歩が踏み出せるようになるかもしれません」

人はトラウマの後に成長するといいます。「何かつらいこと、悲しいことがあると、乗り越えようとします。苦しいことを体験していない人以上に成長することができるのです」

 「ヨーロッパでは70歳、80歳は実る時期。決して枯れる時期ではありません。30~40代は、養分を取って膨らませる時期ね。自分をどんどん磨き、成長させて、実りをつけてから死んでいきたい。あの人がこうだったから、など人のせいにしていたら、自分がかわいそうです」