人生のピンチに陥ったときに、局面を打開するきっかけになった「逆転の一冊」を聞くリレー連載。第8回はプロレスラー棚橋弘至さん(新日本プロレス)の虎の子の一冊です。近年のプロレスブームの立役者であり「100年に一人の逸材」と言われる棚橋さん。プロレス暗黒時代をどう乗り越え、ブームをけん引するまでになったのでしょうか。そこにあった一冊の本とは?

(上)棚橋弘至「成功を捨て続ける」大切さを知った逆転の一冊
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棚橋弘至「成功を捨て続ける」大切さを知った逆転の一冊


あらゆるジャンルの話題の本を読む

―― プロレス人気を再燃させ、「プ女子(プロレス好き女子)」を大量に生むきっかけになった棚橋さんが、逆転の一冊に、LINEの社長兼最高経営責任者(CEO)だった森川亮さんが書いた『シンプルに考える』(ダイヤモンド社)を挙げたのは意外でした。プロレスラーの中では読書家としても知られる棚橋さんなら、歴史ものか戦記ものと勝手に想像していました。

棚橋弘至(以下、敬称略) 本はあらゆるジャンルを読みます。ビジネス書、旅行記、自己啓発本、週刊誌……。特に好きなのは推理小説かな。東野圭吾さん、大沢在昌さんの著書はすべて読破。京極夏彦さんはまだ読み終えていないかもしれません。松尾スズキさんも好きです。僕らは遠征が多いので、移動の合間に本屋さんに立ち寄り、話題になっている本を購入します。

「歴史ものや漫画も好きで、最近は『キングダム』(原 泰久)を読んでいます。登場人物では特に王騎が好きですね。息子の名前を三国志の登場人物から取ったほど三国志も愛読しています。漫画だけでなく、小説も読破しました」
「歴史ものや漫画も好きで、最近は『キングダム』(原 泰久)を読んでいます。登場人物では特に王騎が好きですね。息子の名前を三国志の登場人物から取ったほど三国志も愛読しています。漫画だけでなく、小説も読破しました」

言葉は技と同じくらい大切

棚橋 文章を書くのも好きなんです。現在、雑誌『Tarzan』(マガジンハウス)、水道橋博士が編集長を努める「メルマ旬報」、新日本の有料会員サイトなどに連載を持っています。自分のブログもあります。これらは移動の合間に書いていますね。ただ、連載をいくつも抱えていると、ネタや表現法に行き詰まることもあったのですが、本屋でたまたま手にした『読みたいことを、書けばいい。』(田中泰延著 ダイヤモンド社)を読んでいるうちに、それまでは書く直前に肩に力が入っていたけれどストンと軽くなり、文章を書くのがますます楽しくなりました。最近は短編小説も執筆しています。

―― 言葉、あるいは表現力はプロレスに役立つことはありますか。

棚橋 もちろん! 言葉は技と同じくらいに大切だと僕は思っています。僕が若手の頃、武藤敬司さんの知名度、戦績、ファンからの支持が圧倒的で、彼を超えるにはどうすればいいかと思案し続けていました。そして、彼の絶対的存在を逆手に取り、「僕は100年に一人の逸材です」というマイクパフォーマンスを用い、武藤さん超えを暗にアピールした。もちろん、初めはブーイングの嵐でしたけど、いつの間にか「100年に一人の逸材」は僕のキャッチコピーとして定着していったんです。

左はIWGPヘビー級王座・第69代チャンピオンのオカダ・カズチカ選手。プロレス界にカネの雨を降らせることから「レインメーカー」と呼ばれる 写真提供/新日本プロレス
左はIWGPヘビー級王座・第69代チャンピオンのオカダ・カズチカ選手。プロレス界にカネの雨を降らせることから「レインメーカー」と呼ばれる 写真提供/新日本プロレス