人生における「逆転の一冊」を聞くリレー連載。今回は歌手・森進一さんの(下)です。3人の息子の子育てに大きな影響を与えたフロイトの本。反抗期を経た息子たちとの今の関係は? そして「試練にも意味があったのかと思えば痛快」と振り返る森さんのこれからの思いとは――。

(上)母の自死…哲学者に共感「人生は苦しいもの」
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息子を「甘やかすこと」が真の愛ではない

編集部(以下、略)―― ショーペンハウアーの本と同様に、フロイトの本とも偶然の流れで出合ったのですか?

森進一さん(以下、森) 精神分析を学んで子育ての参考にしたいと考えて本屋へ出向き、目に留まったのが湯田豊さんという思想家がお書きになった『ジークムント・フロイト』という本だったのです。

 39歳で2度目の結婚をして、子どもは欲しかったけれど生まれてくるまではピンとこなかった。息子が無事に生まれてきて初めて「どうやって育てたらいいんだろう?」と考えるようになったんです。41歳のときに長男(ロックバンドONE OK ROCKのボーカル・Takaさん)、続いて年子で次男、そこから5年離れて三男(ロックバンドMY FIRST STORYのボーカル・Hiroさん)と3人の息子に恵まれましたが、私は早くに父と離れていたので、父と自分の関係性から何かを学び取るということができなかったんですね。『ジークムント・フロイト』を読んでなかったら、私は子育てを間違えていたというか、きっと迷走していたと思います。

「苦しみの渦中にいる時は読書しようなんていう心のゆとりはありません。私が読書に目覚めたのは、40代半ばのことでした」
「苦しみの渦中にいる時は読書しようなんていう心のゆとりはありません。私が読書に目覚めたのは、40代半ばのことでした」

―― 本を読んで印象に残ったのはどういうことでしたか?

 フロイトは「エディプス・コンプレックス」の発見を伝えていて、確か「息子にとって母親は恋人である。しかし母親は父親のものである」といった一文があったと思うのですが、要するに息子は同性である父親に対して無意識のうちにライバル心を抱いている。そして、エディプス・コンプレックスが解消されないままに成長すると、社会に適応できなかったり、神経症の発症につながったりするということを説いています。なるほどと思いました。結果的に私がフロイトの本で習得したのは、父親と母親とでは役割が違うのだということ。どんなに我が子がいとおしくても、甘やかすことが真の愛ではないということ。自立心は脳が柔らかい幼児のあいだに育むことが大切だということ。

―― それを受けてどんな教育を実践なさっていたのですか?

 散歩中などに息子が転んでビービー泣いていると母親は駆け寄って抱き起こそうとするのですが、私は放っておけと伝えていました。必ず自力で立ち上がるからと。自力で立ち上がることができたら自信になる。転んで泣いても誰も助けてくれないんだぞと諭すことが親の務めだと、今も私は確信しています。

―― なかなか厳しいですね。