目指すべき「笑」の道の裏付けをくれた

―― どんな言葉が奈々福さんの心を捉えたんですか?

奈々福 「『笑い』は常に新しく現代的なものなので、笑わせる作業を続け、それが成功する限り、演者は現代に生きることができる」と小沢さんは書いています。本が書かれた当時、浪曲と講談が衰退し、落語のみが健在なのは「笑」を追う作業が時代遅れをやっと引きとめているからだ、と。そして浪曲が起死回生をはかるとすれば、それは笑う浪曲であろうと予言しています。

 これを読んだときに、これは私のためのメッセージだと思いました。そもそも自分の趣向性として「笑」があるんです。浪曲師になって割と早い段階から、「笑」の要素が入っている新作浪曲を作って演じていました。山田洋次監督と渥美清さんがコンビを組んだ名作ドラマ『放蕩(ほうとう)一代息子』や、童話の『シンデレラ』を原作にした演目などです。でも浪曲の世界では、滑稽のことをケレンと呼び、低く見られているんですね。

 先輩たちから、ケレン読みはトリを取れないと散々言われました。遠回しの批判だったと思いますね。それまでは「気にしない」という対策を取っていましたが、小沢さんがそう言うなら、ケレン読みと言われても私は何も怖くないと思いましたね。

小沢さんの書には「浪曲が起死回生をはかるとすれば、それは笑う浪曲であろう」とあった。「これは、私のためのメッセージだと思いました」
小沢さんの書には「浪曲が起死回生をはかるとすれば、それは笑う浪曲であろう」とあった。「これは、私のためのメッセージだと思いました」

奈々福 それにね、舞台からお客さんの反応を感じることができるんですよ。昔々の物語に「笑」の要素を入れると、今この瞬間のエネルギーが生まれるんですよ。浪曲は大衆芸能だから、今に生きていなくてはいけないと考えていた。その裏付けを小沢さんにもらうことができたんです。