人生における「逆転の一冊」を聞くリレー連載。今回は講談師・神田伯山さんの(下)です。「身の置き場がなく、内にこもっていた」という中学時代に、伯山さんが人生で初めてハマったプロレス。伯山さんが選んだのは、ジャイアント馬場の生涯を克明に描いた一冊でした。
(上)神田伯山の一冊 空っぽだった少年をプロレスが救った
(下)神田伯山「語り継がれてほしいジャイアント馬場の一生」 ←今回はココ
―― (上)で、柳澤健著『1964年のジャイアント馬場』が「逆転の一冊」だと教えてくれました。どんなきっかけでこの本を手にしたのですか?
伯山 僕がリアルタイムで見ていたのは、「クイズ世界はSHOW by ショーバイ!!」などテレビのバラエティー番組に登場する、タレント的な馬場さんでした。大きくて楽しくて優しい馬場さんが、どういう人生を歩んできたのか知りたくて迷わず手に取りました。
馬場さんは身長が2メートル9センチで当時としては桁外れに大きく、それがものすごいコンプレックスだったと思います。優しい田舎の青年が巨人軍に入団したものの不遇のまま引退し、力道山に誘われて入ったプロレスの世界で大スターになっていく。持て余すほどの巨体と折り合いをつけ、戦った人生が『1964年のジャイアント馬場』には書かれています。
関係者からの証言と細かいデータを積み上げて書かれているので非常に信頼ができる内容ですし、今から何年前のこととかきちんと書かれていて分かりやすい。講談では「元禄15年12月14日」と年月を刻み、事実を伝えていくのですが、柳澤さんの本は講談的手法とも共通してリズムもよく、分厚い本ですが一気に読めてしまいました。
―― 伯山さんご自身と馬場さんの一生が重なる部分はありましたか?