裏切り、病気、孤独、死別、離婚、失業――ARIA世代にはあらゆるピンチが襲ってきます。人生のピンチに陥ったときに、局面を打開するきっかけになった「逆転の一冊」とは? 連載第5回は、壇蜜さんの虎の子の一冊です。恩師との別れを経験した後、壇蜜さんがエンバーミング(遺体衛生保存)の仕事に就くきっかけを作ったのもこの一冊。今回は、芸能界の仕事との向き合い方についても語ります。

(上)「遺体と向き合う仕事」にピンときた
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逆転の一冊 壇蜜「遺体と向き合う仕事」にピンときた


「生きていない人の話」を読んで「生きていい」と思えた

―― 前回挙げてくれた逆転の一冊『黒鷺死体宅配便』、そしてエンバーミングの仕事。いずれも「死」が大きく関係しています。「死とどう向き合うか」が、壇蜜さんにとって大きなテーマになっているようですが、死ぬことは怖いですか? 怖くないですか?

壇蜜さん(以下、敬称略) すごく怖いです。死ぬのが怖くないって言っている人の気持ちは分からないですね。生きづらさを感じていた高校生のときに『黒鷺死体宅配便』に救われたのは、死を見つめたかったからではないんです。厳しい環境の中で、自分が何のために生きてるのか分からなくなったから、死者の声がたくさん出てくる「生きていない人の話」を読んだんだと思います。

 漫画の中とはいえ、生きていない人でもしっかりと自分を主張してるし、周囲のいろいろな人を振り回してる。だからこんな私でも、誰かや何かに影響を与えるチャンスがあるのかなって。それが当時の私の励みになりました。

 「死とエロスの旅」というテレビ番組のロケで、足かけ6年でネパール、メキシコ、タイと3つの国を回って思ったのは、「やっぱり人は2度死ぬんだな」ということ。肉体的な死の後、他人に自分の存在を忘れられたときに2回目の死を迎えるんです。死後に、少しでも誰かに思い出してもらって生き返る瞬間があれば幸せだなって。死んだ本人はそれを感じることはできないかもしれないけど、他者の反応を雲の上から見るぐらいは許されるのかなって思っています。

『黒鷺死体宅配便』(大塚英志原作、山崎峰水作画/角川書店)は24巻まで刊行されている。死体の声が聞ける主人公と、チャネリングやエンバーミングなど特殊な能力を持った若者たちが出会い、死体の望みを聞いて報酬と引き換えに、望みの場所に届ける会社を作るストーリー
『黒鷺死体宅配便』(大塚英志原作、山崎峰水作画/角川書店)は24巻まで刊行されている。死体の声が聞ける主人公と、チャネリングやエンバーミングなど特殊な能力を持った若者たちが出会い、死体の望みを聞いて報酬と引き換えに、望みの場所に届ける会社を作るストーリー