裏切り、病気、孤独、死別、離婚、失業――ARIA世代にはあらゆるピンチが襲ってきます。人生のピンチに陥ったときに、局面を打開するきっかけになった「逆転の一冊」とは? 連載第4回は、演劇ユニット「TEAM NACS」が所属する芸能事務所クリエイティブオフィスキュー社長・伊藤亜由美さん。北海道との向き合い方を変えるきっかけになった一冊について語ります。

(上)大泉洋を育てた人気劇団の母 ←今回はここ
(下)『スロウ』で知った北海道の原石

北海道では知名度上昇、でもこのままでいい?

―― 俳優・大泉洋さんらを擁する演劇ユニット「TEAM NACS」が所属する、北海道の芸能事務所クリエイティブオフィスキュー代表・伊藤亜由美さん。映画を企画・プロデュースするほか、NHK連続テレビ小説『なつぞら』にはTEAM NACSから安田顕さん、音尾琢真さん、戸次重幸さんが出演するなど、地方発の芸能事務所として輝かしい成功を収めていらっしゃいますが、東京進出の際には苦悩もあったと聞きました。

 そもそも、演じる側だった伊藤さんが、なぜ裏方に回って芸能事務所を創業したのでしょうか。

伊藤亜由美さん(以下、敬称略) 事務所を創業したのは27年前です。それまでアパレル会社で働きながら舞台に立っていたのですが、当時、北海道にはエンターテインメントを創造・発信する芸能事務所がなく、私の退職金を元手に劇団の主宰者だった鈴井貴之(北海道テレビ『水曜どうでしょう』での愛称は「ミスター」)と起業しました。当初は社員ゼロで、劇団員が所属タレントとして名を連ねていました。その後、安田や大泉たちが加わりますが、彼らは大学生だったので仕事というよりバイト感覚だったと思いますね。

TEAM NACSなど、事務所に所属するメンバーからは「オフィスキューの母」として慕われている。事務所のみならず「北海道を背負って」活動しているイメージがあるが、北海道のすばらしさに気付いたのは40歳頃から
TEAM NACSなど、事務所に所属するメンバーからは「オフィスキューの母」として慕われている。事務所のみならず「北海道を背負って」活動しているイメージがあるが、北海道のすばらしさに気付いたのは40歳頃から

 地方のテレビ局は制作予算が少なく、自分たちで何とかするしかありませんでした。だからこそ『水曜どうでしょう』の(低予算で無謀な旅をする)アイデアが生まれたというのもありますが。次第に自分たちで作った映画やドラマを「面白い」と言っていただくことが増え、TEAM NACSメンバーの評判も上がっていきました。でも、北海道で人気や知名度があっても、彼らも我々マネジメントする側も「このままで良いのだろうか」と思っていました。

―― 東京進出を考え始めたのは、いつ頃ですか?