人生における「逆転の一冊」を聞くリレー連載。今回は女優の坂井真紀さんの虎の子の一冊です。「ぜったいキレイになってやる」――力強いCMで視聴者の心をぐっとつかんだのは1992年のこと。以降、女優として映画や舞台で活躍を続ける坂井さんを奮い立たせるのは、あの落語家の本でした。

(上)逆転の一冊 立川談志の落語本で自分に喝!
(下)人生は一度きり。立川談志が教えてくれたこと ←今回はココ

私も、バッサリと人を斬るタイプ

―― (上)で、立川談志著『立川談志遺言大全集』(講談社)が逆転の一冊だと話していました。今でも手に取ることはありますか?

坂井 全14巻の『立川談志遺言大全集』は、本棚の目につく場所に並べてあります。一つひとつの噺(はなし)はさほど長くはないので、どの巻のどのページを開いても読みやすく、集中することができます。嫌なことがあっても忘れることができるので、ちょっともやもやしているときに手にすることが多いです。

「自分がウジウジしているときに『立川談志遺言大全集』を手に取って、談志師匠はどんなふうに考えていたのかな、と想像を巡らせることも。自信をなくしかけているときでも、談志師匠の落語を聴いたり、本を読んだりすることで闘志をもらうことができるんです」
「自分がウジウジしているときに『立川談志遺言大全集』を手に取って、談志師匠はどんなふうに考えていたのかな、と想像を巡らせることも。自信をなくしかけているときでも、談志師匠の落語を聴いたり、本を読んだりすることで闘志をもらうことができるんです」

―― 談志さんの本を選んだのが意外だったのですが、坂井さんご自身と談志さんとで似ていると感じる部分はありますか?

坂井 談志師匠のように、私も人をバッサリ斬るときがけっこうあります(笑)。

 談志師匠は、厳しいことを言った後に、優しいことや心温まることをおっしゃるじゃないですか。談志師匠がそう思ってらっしゃったかは分かりませんが、斬られるほうもつらいかもしれませんが、斬る側もつらいと思うんです。斬って得することもあまりないですしね。でも、ここできちんと言わないと現状が良くならないというときは、正直でいたいんです。さらに、私は、「ここに手を置くとやけどするよ」と注意されても、「でも置きたいんです!」と言って実行し、やけどをするタイプです(笑)。しかも一度ではなくて。その次も「今度はやけどしないかもしれないでしょ?」と強がって手を置いてしまうという。変なところで意地を張ったりするんですよね。

 でも、それが41歳で子どもを産み、娘の成長を見守る中では、思い通りにいかない毎日ですから、強がったり意地を張ったりしている暇はありません。自分のことをきちんと客観的に見なければならない。子どもの成長を通して自分という人間とも新たに向き合い、生きにくく生きていた部分を、シフトチェンジできるようになってきたと感じています。