人生における「逆転の一冊」を聞くリレー連載。今回は女優の坂井真紀さんの虎の子の一冊です。「ぜったいキレイになってやる」――力強いCMで視聴者の心をぐっとつかんだのは1992年のこと。以降、女優として映画や舞台で活躍を続ける坂井さんを奮い立たせるのは、あの落語家の本でした。

(上)逆転の一冊 立川談志の落語本で自分に喝! ←今回はココ
(下)人生は一度きり。立川談志が教えてくれたこと

役柄が主役から主役の母に――壁にぶつかった

―― 1992年にドラマで主演デビューを果たしてから、舞台、映画、意外なところではバラエティー番組の「ココリコミラクルタイプ」でレギュラーを務めるなど、多彩なジャンルで活躍をしています。これまでに大きな逆境はあったのでしょうか。

坂井真紀さん(以下、敬称略) すごく幸せなことだと思うんですが、「ここが逆境だった」と言い切れるような、深い谷底に落ちたことはないんですね。けれど、自分の中では日々が逆境の連続です。毎日闘って、負けて、試練に立ち向かってきた――私の場合、そんな生き方だったのだと思います。

 22歳でデビューをしてからずっと女優として仕事をしてきて、最初に行き詰まりを感じたのが30代に差し掛かる頃です。デビュー当時は主役を演じることを目標にし、それがかない、徐々に「主役のお母さん」というような役もいただくようになったときに、進化しているはずなのに退化している気になったり、自分のお芝居の幅の狭さに落ち込んだり、「自分はこれから女優としてどんなことができるのか」と悩み始めました。今、50歳を迎えて振り返ると、私、青かったなと思うんですが(笑)、壁にぶつかっていたんです。

 そんなとき、以前から父がファンだった落語家の立川談志師匠のことを思い出しました。

1970年、東京生まれ。「談志師匠の落語会に行き、『大切なことは目に見えるものだけじゃない』と気づけました」(坂井真紀さん)
1970年、東京生まれ。「談志師匠の落語会に行き、『大切なことは目に見えるものだけじゃない』と気づけました」(坂井真紀さん)