立川談志の落語会で衝撃「ここには正義がある」

坂井 子どもの頃はテレビに映る談志師匠を見て、なんて毒舌なおじさんなんだろうと感じていたんですが、なぜか久しぶりに落語を聴いてみたいなと思ったんです。落語のことには詳しくなかったのですが、自分でチケットを取って落語会へ行きました。初めて生で見たときのことは、今でもはっきり覚えています。新宿の東京厚生年金会館ホールの一番後ろの席でした。

 談志師匠は食道がんを患った後で声も出ない頃だったのですが、本編に入る前に話す「まくら」の段階で心をわしづかみにされました。ここには正義がある、と大きな衝撃を受けて一気にファンになり、談志師匠の落語会に通うようになりました。「大切なことは目に見えるものだけじゃない」と気づかされました。談志師匠は辛辣なことを言ったり、書いたりしますよね。「テレビはつまんねえなあ、いい女優なんて一人もいやしない」とか(笑)。そのキツさや過激さも好きなんですが、その奥にある優しさにぐっと来るんです。

 好きになると、その人が何を考えたり、感じたりしているのか、頭の中をのぞいてみたくなりますよね。それで会場で売っていた『立川談志遺言大全集』(講談社)を手に取ったんです。

―― 『立川談志遺言大全集』は全14巻の大作で、落語の噺(はなし)から解説まですべて談志師匠が書かれたというものですね。どんなところに引かれましたか。

『立川談志遺言大全集』(全14巻、講談社)。立川談志(1936~2011年)が自ら筆を執った「書いた落語」を多数収録。柳家小さん、古今亭志ん朝などを論じた「芸人論」の巻もある
『立川談志遺言大全集』(全14巻、講談社)。立川談志(1936~2011年)が自ら筆を執った「書いた落語」を多数収録。柳家小さん、古今亭志ん朝などを論じた「芸人論」の巻もある