村木 私は推理ものが大好きで、『名探偵コナン』はよく見ているんですよ。アニメは10年以上、夫が録画し続けてくれているくらい(笑)。

 コナン君は常に冷静で、思い込みで行動しません。誰かが殺されて、そばに血だらけのナイフを持った男が立っていても、「刺したところを見た人がいないのなら、彼が殺したとは証明されない」と言う。思い込みをなくして、常に新鮮な目で物事を見ようとするんです。

 私もコナン君になり切って捜査報告書を読み込んだら、2度目に目を通した時に検察側の矛盾が見つかった。無罪判決はコナン君の教えのおかげです(笑)。

拘置所では「差し入れ本」に助けられた

―― 読んだ本に影響を受けたり、仕事の参考にしたりすることは多いのですか?

村木 実は私、読書が自分の価値観や生き方に影響を及ぼしたことってなかったんです。そもそも、人生の救いを求めて本を読むことがなかった。だから、読むのは圧倒的に推理小説。エンターテインメントとして楽しんでいました。

 でも、拘置所にいた5カ月間、初めて本が精神的な支えになりました。

 あの頃は、無実の罪で拘置所に入れられるという特殊な状況下で、「村木さんがやりました」と言う人、なんとか私を有罪にしようとしている検事など、私ならこういうことは絶対にしないという人が次から次へと登場しました。

 そんな状況の中、差し入れていただいた本を150冊ほど読みました。印象深いのは、それまで読んだことのなかった相田みつをさんの『にんげんだもの』(KADOKAWA)。この本のおかげで、偽の障害者団体を作った人や、私を有罪にしようとする検事たちと同じように「私にも弱いところがある」と思うと不思議と周りに腹も立たなくなったんです。

―― 特殊な状況下にいたからこそ、感じる部分があったんですね。

村木 大好きなサラ・パレツキーの『サマータイム・ブルース』(早川書房)に、「生きていれば多くのことが降りかかってくる。だけど、それをどういう形で人生の一部に加えるかはあなたが決めること」という言葉が出てきます。1度目に読んだ時はなんの印象も残らなかったのですが、長年一緒に仕事をしてきた人が拘置所に差し入れてくれて2度目に読んだ時、まさに私に合った言葉だと感じました。この試練の中でも、自分らしくいようと思えました。

―― 『名探偵コナン』の他にも、漫画をよく読むと聞きました。

村木 昔からよく読むんです。『キャンディ・キャンディ』(いがらしゆみこ/講談社)も大好きでしたし、公務員時代は、『悪女』(深見じゅん/講談社)や『お水の花道』(城戸口静原作/講談社)のような、働く女性を描いた漫画もよく読みました。最近だと『フルーツバスケット』(高屋奈月/白泉社)に号泣したり、『黒博物館 ゴースト アンド レディ』(藤田和日郎/講談社)を読破したり。

苦しかった5カ月間の拘置所生活中に読んだ本はなんと150冊!「本があったから耐えられたと思います」
苦しかった5カ月間の拘置所生活中に読んだ本はなんと150冊!「本があったから耐えられたと思います」