「書き直したい」歌詞が人を魅了することもある

―― かなえたい願いが強いほど、こだわって、ガチガチになってしまうことがありますね。でも、素直になり、シンプルになったということでしょうか。

大江 そうだと思う。考えてみれば、シンガーソングライターを長くやってきたけど、自分がこだわって書いた数行というのにまったく人は頓着せず、「こんなんでいいかなぁ」と自信がなかったり、できれば書き直したい、って思っているようなところが人を魅了したりする、というギャップを常に感じていました。自分が思い描く未来は100%こない。常に物事って自分が思い描くようにはいかないんです。

 高層ビルに登って下を見て、「こんなところでちまちま生きたくない」なんて思うけれど、上から見るから(ビルの下にいる人が)小さく見えてるだけ。ただの遠近法で、実際は小さくないんです。自分のエゴを、よいしょって降ろして世界を見ることができるようになったことが、ニューヨークでの4年半の学生生活の大きな収穫でした。

※大江さんが大好きな陸奥A子さんの漫画にも言及する(下)は、こちら。
大江千里 逆転の一冊「逆転に横転。転がり続ける人生」

取材・文/柳本操 写真/洞澤佐智子

大江千里(おおえ せんり)
ジャズピアニスト
大江千里(おおえ せんり) 1960年生まれ。関西学院大学在学中に『ワラビーぬぎすてて』でデビュー。『格好悪いふられ方』『Rain』などヒット曲多数。2008年に渡米。The New School for Jazz and Contemporary Musicに入学し、ジャズを学ぶ。2012年、卒業と同時に自身が設立したPND Records & Music Publishingからアルバム『Boys Mature Slow』を、2019年9月にジャズピアニスト転身後6枚目のアルバム『Hmmm』をリリース。近著に『ブルックリンでジャズを耕す――52歳から始めるひとりビジネス』(KADOKAWA)。ブルックリン在住。アルバム「Hmmm」特設サイト公式サイトsenri garden(note)