ハンガリーの2つの大きな美術館のコレクションが25年ぶりにまとまって来日しています。展覧会の冒頭を飾るのは、ドイツ・ルネサンスの巨匠クラーナハの教訓に満ちた2つの作品。日本でも知名度が上昇中のクラーナハとは、どんな画家なのでしょうか。コラムの最後には、今週のオススメ美術展情報も載せているのでチェック!

クラーナハは、宗教改革のルターと親密

 「ルネサンス」といえば、「再生」という意味で、人間性豊かな古代ギリシャ・ローマ時代の文化を復興させる試み。代表的な画家はミケランジェロやレオナルド・ダ・ヴィンチ、15~16世紀のイタリアを中心に起こった――までは常識ですが、「ドイツ・ルネサンス」と聞いて思い浮かぶ画家は誰でしょうか。

 代表格は、ドイツ美術史至上最大の画家といわれるアルブレヒト・デューラーと、宗教改革で有名なマルティン・ルターと親交があったルカス・クラーナハ(父※)です(歴史の教科書に必ずと言っていいほど載っているルターの肖像画を描いたのもクラーナハ)。クラーナハは、2016年から2017年にかけて東京と大阪で大規模な展覧会が開催され、日本での知名度も急上昇しました。

 当時の画家は、その土地ごとの画家組合に所属して制作活動をするのが主流。ですが、クラーナハはルターを擁護したザクセン選帝侯フリードリヒ3世の宮廷画家だったため、組合の制約はなく、比較的自由に活動できた画家でした。北方美術で初めて裸体のヴィーナスを描くなど、当時としては異例のエロチックな絵も描いています。そのクラーナハの興味深い2つの作品が「ブダペスト―ヨーロッパとハンガリーの美術400 年」展(国立新美術館・六本木、開催中~2020年3月16日)で公開されています。

※クラーナハ(父)と表記するのは、同名の息子も画家だったため。

ルカス・クラーナハ(父)『不釣り合いなカップル 老人と若い女』
ルカス・クラーナハ(父)『不釣り合いなカップル 老人と若い女』
1522年/油彩・ブナ材/ブダペスト国立西洋美術館 (C) Museum of Fine Arts,Budapest - Hungarian National Gallery, 2019
絵をクリックして見てください。ニヤリと笑った老人男性は若い女性を抱き寄せ、右手は女性の胸元に。一方、女性の右手はこっそりと男性の膨らんだ財布の中に…。男女の設定が逆になった絵も次ページで紹介します