モネが描いた睡蓮の大装飾画で知られるパリ・セーヌ河岸に建つオランジュリー美術館。実はその基礎となったのは、画商ポール・ギヨームのコレクションでした。印象派とエコール・ド・パリの作品を集めたヨーロッパ屈指のコレクションから、現在、ルノワールの傑作『ピアノを弾く少女たち』が来日中。今回は、「幸福感」を描き続けた画家、ルノワールに迫ります。コラムの最後には、今週のオススメ美術展情報も載せているのでチェック!

「少女たちの幸せな一瞬」を切り取ったスナップショット

 オーギュスト・ルノワール(1841-1919)は、印象派の巨匠であり、肖像画の名手として知られ、世界中で最も愛されている画家の一人です。

 横浜美術館の「オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」展(開催中~2020年1月13日)にお目見えした『ピアノを弾く少女たち』は、「透き通るような肌、流れる髪、ドレスの柔らかな質感など、ルノワールの大好きだった女性美にフォーカスを当てた作品。後ろに立つ少女は、手前の少女に重なり顔が少し隠れてしまっていることで、かえって、ある瞬間を切り取ったスナップショットのような効果を生んでいます」(横浜美術館・主席学芸員 沼田英子さん)。

 少女たちの話し声まで聞こえてきそうな、幸せ感に満ちた柔らかな空気。これこそルノワールが、生涯をかけて描き続けたものです。

オーギュスト・ルノワール『ピアノを弾く少女たち』
オーギュスト・ルノワール『ピアノを弾く少女たち』
1892年頃/油彩・キャンバス/Photo (C) RMN-Grand Palais (musee de l’Orangerie) / Franck Raux / distributed by AMF
アップライト・ピアノが工場生産できるようになって普及すると、ピアノ演奏は淑女のたしなみとされ、ピアノのレッスンは画題としても人気だった。楽譜をのぞき込む少女の声やピアノの音色まで聞こえてきそうなこの作品は、晩年までルノワールのアトリエに保管され、画家没後の1928年にポール・ギヨームが収集したもの

 ルノワールが一貫して描き続けたのが、「幸福感」でした。「絵は好ましく、楽しく、きれいなものでなければいけない」と考えていたルノワールの作品は、健康的なピンクの頬や丸みのあるボディーライン、透明感のある輝く肌の女性像と、美しい色彩の調和に満ちた幸せ感のある画面で、私たち鑑賞者を心地よくします。

 しかし、ルノワールの絵画の様式は何度かの変遷を経ています。