2020年、アーティゾン美術館(旧ブリヂストン美術館)が長期休館を経て新たにオープンしました。現在開催中の展覧会は、アーティゾン美術館のコレクションと現代美術家が共演するジャム・セッションの第1弾「鴻池朋子 ちゅうがえり」。19世紀の西洋画家の作品と鴻池さんの作品が並んで展示されています。実は鴻池さん、どの作品と共演するかを「選べなかった」といいます。思いを聞きました。

 2015年5月から建て替えのために休館していたブリヂストン美術館が、2020年1月にアーティゾン美術館(東京都中央区)という新館名でオープンしました。アーティゾン美術館が位置するのは、JR東京駅から徒歩5分の一等地に立つ「ミュージアムタワー京橋」の低層部。展示室は4階から6階までの3フロアで、展示面積は約2100平方メートルと前美術館の2倍に拡張しました。

 現在は、石橋財団コレクションと現代美術家が共演するシリーズ「ジャム・セッション」の第1弾「鴻池朋子 ちゅうがえり」を開催中です。鴻池さんの東京での大規模個展は11年ぶり。絵画、アニメーション、手芸などの手法を駆使したインスタレーションを発表して現代の神話などを描き、芸術の根源的な問い直しを続ける鴻池さんに、展覧会について聞きました。


「選ぶ」という行為は特権的、与えられた特権は脆弱

展示風景より。新作のふすま絵のインスタレーションの前に立つ鴻池さん。観客は滑り台を滑ることができる Photo by Nacasa & Partners
展示風景より。新作のふすま絵のインスタレーションの前に立つ鴻池さん。観客は滑り台を滑ることができる Photo by Nacasa & Partners

―― 今回の展覧会は、石橋財団コレクションと鴻池さんの作品が一緒に並ぶというもの。しかし、鴻池さんは膨大なコレクションから作品を「選べなかった」と書かれた解説を読みました。「選ぶことをやめる選択をした」と。どういう思いからでしょうか。

鴻池朋子さん(以下、敬称略) 私は、真面目に3つ作品を選ぼうとしたんです。ですが、コレクションの収蔵庫に3回通っても選べなくて。4回目には学芸員さんと対話しながらコレクションを選び、でも「やっぱりできなかった……」と。最終的には「すみません、学芸員さんが選んだ作品でお願いします。それが一番素直な感じがします」って言いました。

 「なぜ選べなかったんだろう」と考えた結果、その一つとして「選ぶ」という行為が特権的なものであって、また、そこに凡庸さを感じている自分がいました。たくさん並んだケーキの箱から、「どうぞ好きなケーキを選んでください」と選択権を委譲された途端、王様としてケーキの箱を支配し、好きなケーキを選び、嫌いなものを排除できます。でも与えられた特権というものは、自分で獲得したものではないのでどこか脆弱なんですね。「それをやっては危ないよ」と体が逡巡(しゅんじゅん)して。だから今回は、「選べない」ということを鑑賞者にも素直に伝えました。

―― その結果、学芸員によって選ばれたのがコロー、クールベ、シスレーという19世紀の西洋画家の3作品。いずれも森が舞台となっている作品を見たとき、何か芽生えた思いはあったのでしょうか。

展示風景より。鴻池さんの作品群と並ぶカミーユ・コロー『オンフルールのトゥータン農場』(左中央の壁に額装された絵)。19世紀の画家の作品が1点だけ交ざっているとは気づかないほど、なじんでいた Photo by Nacasa & Partners
展示風景より。鴻池さんの作品群と並ぶカミーユ・コロー『オンフルールのトゥータン農場』(左中央の壁に額装された絵)。19世紀の画家の作品が1点だけ交ざっているとは気づかないほど、なじんでいた Photo by Nacasa & Partners
展示風景より。左/牛の皮にオオカミを描いた鴻池さんの『オオカミ皮絵キャンパス』、右/ギュスターヴ・クールベ『雪の中を駆ける鹿』 Photo by Nacasa & Partners
展示風景より。左/牛の皮にオオカミを描いた鴻池さんの『オオカミ皮絵キャンパス』、右/ギュスターヴ・クールベ『雪の中を駆ける鹿』 Photo by Nacasa & Partners