吉川 過去って、すごく魅力的ですよね。歴史というのはファンタジーのようなもので、過去に託して楽しい夢を見ることができる。そう思うのは、今という時代のせいかもしれません。文明が爛熟して、熟れ過ぎた果実が枝から落ちる寸前のような時代に、僕らは生まれたのかもしれない。だって、我々の未来は、さほど楽しそうに見えないじゃないですか。経済にしても、もともとの経世済民から、世と民が抜け落ちてしまったような。始祖の時代には想像もできなかったような天変地異が、ひんぱんに起こっているのも、温暖化という人間がもたらした災いであったりと。過去のほうがロマンチックに見えてしまいます。

「三国志」には、人生のさまざまな答えがある

―― 過去を題材にした「三国志」には、よりよい未来をつくるためのヒントがあるのでしょうか。

吉川 故事にはヒントだけでなく、さまざまな答えがあります。人生で直面する困難を切り抜けるための方法が、全部書いてあるんです。

 例えば、300の兵で3万の軍勢を撃破した史実があって、その戦法はビジネスでも使えました。社員5人程度の会社を15人くらいはいるように思わせたかったケースで。どうハッタリをかませば有効打なのか。実はこれ、30代初めに会社を立ち上げたときの自分の経験なんですけどね。

 「困ったら、いつでも訪ねて来いよ」というセリフよく耳にしますよね? しかし実際訪ねてしまうと、皆さん顔が逃げながら「おう、お前よく来たな、おう、おう」「で、何だっけ?」となる。

 「こいつは災いを持ってきたぞ」と、相手の顔に書いてあるわけです。つまり、状況が悪い時に人頼みをしてはならないんですね。そういったことも故事には書いてある。僕にとって三国志も、実用書であり参考書なんです。

―― 最後に日経ARIA読者にメッセージをお願いします。

吉川 三国志展に来場された方々には、ぜひ史実を学びながら、夢の中に入って楽しんでもらいたい。僕もこれから、あらためて展示をゆっくり拝見しようと思っています。