過去に託して夢を見る、ファンタジーのような魅力

―― 吉川さんは劉備よりも、ライバルの曹操がお好きだそうですね。

吉川 劉備のような生き方は、僕にとってはスリリングでないんです。僕は人心収攬(しゅうらん)に重きを置く劉備より、己の知略を武器にして戦乱の世を駆け抜けた、曹操のあり方が好き。宮本武蔵のように、1つのことを極めてゆくような。その意味では、曹操も権謀術数に長けた人物です。政(まつりごと)が絡めば、「清濁併せ呑む」は否めないのでしょうが、そこのかわし方というか、収め方ですかね。その点において曹操に軍配を上げます。

 僕が「三国志」で好きな場面の1つが、天下分け目の戦いといわれた「官渡(かんと)の戦い」です。この戦いで、曹操は約1万の軍勢を率い、約10万の袁紹軍と激突します。袁紹は貴族のぼんぼんで、技も能力も大したことはなく、その軍勢も頭数が多いだけで結束力に欠けていた。その弱みを突いて、曹操は官渡城に籠城しながら、袁紹の輸送隊や食料貯蔵庫に奇襲をかけ、袁紹軍に勝ってしまうでしょ?

 曹操は知力の限りを尽くして、10倍の兵力を誇る敵と戦い、見事勝利を収めた。まさに軍略の天才ですよね。人望に頼る劉備よりも、自らの知略で運命を切り開いていく曹操のほうが、僕は好きなんです。

―― 開催中の特別展「三国志」の中で、特に感銘を受けた展示はありますか。

吉川 やはり「曹操高陵(そうそうこうりょう)」(曹操の墓)ですね。以前、NHKの特集番組の仕事で、曹操高陵を訪れたことがあるんです。でも、当時は規制が厳しくて、入り口から先には入れなかった。今回、曹操高陵からの出土品を拝見して、「やっぱり、中まで行きたかったなぁ」と残念に思いました。

曹操高陵の墓室の実寸大再現。展示室の中でもここは異空間のよう
曹操高陵の墓室の実寸大再現。展示室の中でもここは異空間のよう