日本の戦国時代を思わせる、希代のサクセスストーリー
―― ところで、座右の書に三国志を挙げる男性は多いですが、女性の愛読者は比較的少ないような気がします。
吉川 僕の周りには、北方謙三さんの三国志を読んでる女性が多いですよ。ただ、確かに三国志には、女性はあまり描かれていない。三国志演義には、呂布(りょふ・最強ともいわれる武将)を惑わせる美女・貂蝉(ちょうせん)が登場しますが、これも架空の人物ですね。
三国志の中心人物である劉備(りゅうび)には、こんなエピソードがあります。劉備は長坂(ちょうはん)の戦いで曹操(そうそう)に敗れ、幼い長男と嫁さんを置き去りにして逃走します。そして、長男を救い出した部下の趙雲(ちょううん)に、「嫁と子どもはいつでも新しくつくれるが、よい武将を失ったらこの軍隊は終わりだ」と、今の価値観では理解できないようなことを言うわけです。
これはおそらく前漢の初代皇帝となった劉邦(りゅうほう)を真似たものではないかな。劉邦は女たらしで飲んだくれの遊び人でしたが、人を見抜く目があり、人心掌握術にも長けていた。ゆるさの中に徳を含むというか、器量良しに映るんですよね。また敵を許すようなところもありました。人間としての器がでかかったのではないでしょうか。劉備はこの劉邦のようになりたかったんじゃないかな。
劉備は前漢の皇帝の子孫ということになっていますが、はっきりとは分かっていないんです。やくざ者である劉備・関羽(かんう)・張飛(ちょうひ)という侠客(きょうきゃく)のチームが大活躍して、やがて魏・呉とともに天下を3分する蜀漢(しょくかん)を建て、劉備は一国の主になっていく。日本でいうなら、豊臣秀吉のようなサクセスストーリーです。三国志って、だから日本でも人気があるんでしょうね。