今回は連載番外編です。東京国立博物館 平成館で開催中の特別展「三国志」の音声ガイドナビゲーターを務め、中国史に精通する歌手・俳優の吉川晃司さんが、三国志への熱い思いを語りました。吉川さんが「人生のさまざまな答えが書いてある」という、三国志の魅力とは?

30代初めの転機にハマった三国志

―― 高校時代に読んだ吉川英治作『三国志』を筆頭に、北方謙三作、宮城谷昌光作など、20種類以上の三国志を読んでいると聞きました。深く傾倒するきっかけになった出来事は何ですか。

吉川晃司さん(以下、敬称略) 自分にとって人生最大の岐路が、30代初めの頃に訪れました。いろいろな経緯から、独立して個人事務所を立ち上げることになったのですが、それまでは自分自身を物差しに、いきんで生きてきたものですから、いざ困ったときに助けを請える当てもなく。

 史実や偉人の生き方に学べば、何かヒントがもらえるのではないか。人生の指南書のようなものがほしい――と思ったのが、そもそものきっかけです。ところが、日本の歴史をたどっていくと、肝心なところで、中国の故事や孫子や老子、孔子などが出てくる。それで中国史に興味を持つようになり、すっかりハマってしまったんです。三国志もその流れで。

1984年に映画『すかんぴんウォーク』とその主題歌『モニカ』でデビュー。近年は音楽活動のみならず、NHK大河ドラマ『天地人』『八重の桜』に出演するなど、俳優としても高い評価を得ている。TBSドラマ『下町ロケット』の財前部長役でも話題に

―― 三国志の魅力はどこにあると思いますか。

吉川 三国志の前史にあたる殷周時代や春秋戦国時代は、文化的にも大きな変化があった、面白い時代でした。三国志演義(三国志を基に書かれた明時代の歴史小説)には、このダイナミックな時代の出来事やエッセンスを集め、正史である三国志を脚色してまとめたかのような集大成感がうかがえる。物語としての面白さがあるように思います。

 でも、三国志の魅力はそれだけではありません。もう1つの魅力は、「誰も夢を成就できなかった」こと。

 主要人物は皆、志半ばで倒れ、最後は司馬(しば)氏(晋を建国した司馬炎のこと)に丸ごと持っていかれてしまう。まさに「兵(つわもの)どもが夢の跡」です。そんな人間世界の栄枯盛衰が教訓として描かれていることも、この物語の魅力だと思います。