視力を失い妻に先立たれ、失意のモネを支えた「睡蓮」大壁画構想

 刻々と変化する陽光をとらえ、『睡蓮』の連作を精力的に制作していたモネに悲劇が訪れます。1907年ごろから次第に白内障の症状が現れ始めたのです。さらに立て続けに妻子を亡くし、失意の底にあったモネの創作意欲に火を灯したのは、睡蓮の壁画で一室を飾るという構想でした。モネの絵を高く評価していた一人、フランスの政治家で後に首相になったクレマンソーの勧めもあって『睡蓮』の大壁画を国家に寄贈することにしたのです。それが、現在パリのオランジュリー美術館に展示されている『睡蓮』です。

 モネは大装飾画を構想して1914年ごろから大型の作品を描いていますが、美術館で発表する際のインパクトを高めたいとうい思いもあったのでしょう。大型の『睡蓮』は売ろうとしませんでした。

 その例外が、松方幸次郎です。「『日本に美術館を作り、西洋の本物の絵を見せてあげたい』という松方の志に、モネは心を動かされたのかもしれません」(陳岡さん)

 モネは1926年に86歳で逝去するまでこの『睡蓮』の創作に励みました。その翌年、オランジュリー美術館は開館。『睡蓮の間』と呼ばれる2つの楕円形の部屋には、22枚のキャンバスからなる8点の作品が展示されています。

今回のドヤ顔ワード2
モネは日本美術が大好き。ジヴェルニーの庭にも竹やカキツバタ、牡丹など多くの日本的モチーフを取り入れ、瓢箪池には太鼓橋が。本場の日本顔負けの素敵な庭だよ!
フランク・ブラングィン『松方幸次郎の肖像』
フランク・ブラングィン『松方幸次郎の肖像』
1916年/油彩・キャンバス/国立西洋美術館(旧松方コレクション)
50代初め、美術品の収集を始めた頃の松方。第2次世界大戦後に「松方コレクション」のうち375点がフランスから日本へ寄贈・返還されることに。その作品を保管展示するための美術館として国立西洋美術館が1959年に設立された。公開中

今週末に駆け込みたい美術展
国立西洋美術館開館60周年記念 松方コレクション展

川崎造船所の初代社長・松方幸次郎が私財を投じて築いた松方コレクション。往時は1万点に及ぶ規模だったが、戦争や世界恐慌の影響で散逸した作品も多い。本展は、2016年にルーヴル美術館で発見され、日本に返還された『睡蓮、柳の反映』や、傑作ゆえに日本に返還されなかったファン・ゴッホ『アルルの寝室』など松方コレクションの名品がそろう。

場所/国立西洋美術館 東京都台東区上野公園7-7
開催/開催中~9月23日
料金/一般1600円
問い合わせ/03・5777・8600(ハローダイヤル)

取材・文/中城邦子、市川礼子(日経ARIA編集部)