―― 続いてクリムトの「黄金様式」時代の代表作『ユディトI』をご覧になっていかがですか?

グスタフ・クリムト『ユディトI』
旧約聖書外典に登場するユディトは、敵の将軍ホロフェルネスの首をはねてユダヤの民を救った美女。油彩画で初めて本物の金箔を用いた作品です。額縁もクリムトがデザインしています

豪華絢爛だけじゃないクリムトの魅力

稲垣 実はこれも初めて本物を見るんです。うれしいですね。歩き回って見ていいですか。もっと大きいかと思っていましたが、意外に小さい。本当はみんなと見るんじゃなくてこの絵を独り占めしたいんですけど(笑)。華やかで豪華絢爛(けんらん)なだけじゃなく、繊細さもあって圧倒されます。荘厳さと言うか。取材後にゆっくり鑑賞したいな。

 クリムトが生きた時代のウィーンは、都市改造、人口増加で急成長を遂げる一方で帝国崩壊の危機や経済不安など光と影が同居していました。クリムトの芸術が美しくきらめきながらも、どこか退廃的な影を宿しているのは時代の空気を映し出していたかもしれない。ウィーンの街を歩きながら、そんなことを考えたことを思い出します。

―― 美術展の音声ガイドのナレーターを務めるのは初めてですか?

稲垣 初めてです。僕は必ず(美術展では)音声ガイドを借りるタイプ。美術にそこまで造詣が深くないですし、美術展には勉強をしに行っているので。見て感じるのも大切だけど、知識として教えてもらうと感じ方が違いますよね。