「ピュリスムに取り組んだのは、彼が近代性に目覚めた時期。第一次世界大戦(1914~1918年)直後という時代背景もありました。何もかもが破壊された戦争を経て、芸術家の共通の思いは、世の中を改めてつくり直すことでした。加えて、彼にとっての『近代』とは、アカデミスムとの決別。杓子定規の建築も大嫌いで、建築を通して人間が尊厳を持って近代性の中で生きることができるような、建築や絵画の新たな言語を見いだそうとしていました」(ブリジットさん)

日仏合作、世界でも唯一無二の国立西洋美術館

 現在、国立西洋美術館では「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代」を開催中。1階と2階をつなぐのは、ル・コルビュジエが「建築の本質的要素」と呼んだスロープ。このスロープを上がりながら、さまざまな角度で空間を鑑賞できる仕組みです。

 「国立西洋美術館を理解するためには、歴史を振り返る必要があります。第二次世界大戦後、フランス政府が『松方コレクション』(川崎造船所初代社長・松方幸次郎が収集した絵画)を日本に返還するに当たり、条件としたのがそのコレクションを展示する国立の美術館を造ることでした。その流れの中で、ル・コルビュジエが設計を担当することになったのです。

左/大きな箱を柱で持ち上げているかのようなピロティ。右/国立西洋美術館本館1階の19世紀ホール。スロープもル・コルビュジエ建築の特徴 2点共に(C)国立西洋美術館
左/大きな箱を柱で持ち上げているかのようなピロティ。右/国立西洋美術館本館1階の19世紀ホール。スロープもル・コルビュジエ建築の特徴 2点共に(C)国立西洋美術館

 彼は日本美術への造詣が深く、柱の立て方や外壁に日本製の石をはめ込む(現在はフィリピン産)など、日本の影響も随所に見られます。彼が基本設計をした後は、前川國男、坂倉準三、吉阪隆正といった弟子に任せました。恐らく、世界中どこにいってもこのような日仏合作の素晴らしい美術館はないでしょう。まずは空間を味わい、世界遺産の中で、その世界遺産を生み出した建築家の絵画を楽しむというぜいたくを味わってください」(ブリジットさん)