浮き輪をつけて川に流される母は、生きているだけで感動、満足!

―― たくましく生きる子どもの姿は、まさに、母・リョウコさんを観察しながら、自らも昆虫獲りをしたり冒険したりと、子ども時代を満喫していたマリさんと重なります。

マリ そうですね。昆虫観察も好き、動物も好き。人間も同じような感覚で観察してきました。人間という生き物の生き方の記録だから、歴史が好きなんですね。私と妹は、うちの母のことも常に観察していましたね。なんなんだこの大人は、と。母が大喜びで浮き輪をつけて川に入って流されていくのを見て「慣れないことをするからああなったね。どこまで流されるんだろう」って見ていました(笑)。ちなみにリョウコはおばあさんになってからも、川を見ると「あら気持ち良さそうじゃないの」と言って入りたがります。

―― なんて濃い人生なんでしょう。

マリ 本人は、濃いとか薄いとか考えてないでしょうね。比較対象がないから。とにかく音楽は素晴らしいからもっとたくさんの子どもたちに教えなきゃ、ここで私がやらなきゃ誰がやるの、という思いしかない。こういう生き方がすてき、という、目指す生き方やスタイルなんてものは、なに一つ持っていない人ですよ。なのに、ドライブをしていると、「見てごらん、この夕焼け。泣けてくるじゃない。地球ってなんてすごいんだろう、こんな惑星に生きているなんてねえ」って、いきなり地球レベルのスケールで感動している。地球に生まれてきた、それだけでもう彼女は幸せだったんでしょう。

 数年前、北海道に帰省した折に温泉へ連れて行ったんです。車のリアシートに乗って窓の外を見ていた母が噴火湾あたりの海を見ながら「さあ、温泉でばっちり英気を養ったから、明日からばりばり働くぞ!」とか言っている。私はくつろぎモードのスイッチを入れているのに、なんなの、後ろの人の張り切り? 80年以上生きてきたお婆さんのセリフかよ? ってびっくりしました(笑)。

息子曰く、「わが家には普通の人が一人もいない」

―― そんなリョウコさんのことを孫であるマリさんの息子さんはどう見ているのですか。

マリ 彼を抱っこしながら楽器を教えたり、タウンエースというマイクロバスみたいな車のハンドルを握って、北海道中を巡ったりする姿を横で見て育ちました。だから「変なおばあちゃんだな」と思いながらも、いつもものすごく労っているしリスペクトしていますよ。

 息子からは「うちってさ、普通の人が一人もいないよね」とこれまでに何度も言われました。彼が7歳の頃、新しくできた14歳違いの「お父さん」も変だし、自分の血の繋がっているお父さんも変、だいたいにして、母親が変だと(笑)。

「リョウコの人生を見ると『あれはあれで楽しいじゃん』と思える。つまり、なるようになるというか、先のことを想像しすぎてあれこれ規制してしまうほうが苦しい。リョウコのように浮き輪をつけて川に流されましょうよ」
「リョウコの人生を見ると『あれはあれで楽しいじゃん』と思える。つまり、なるようになるというか、先のことを想像しすぎてあれこれ規制してしまうほうが苦しい。リョウコのように浮き輪をつけて川に流されましょうよ」