マリ その時、とっさに、「助けてよ、自分」「頼むよ、自分」っていう気持ちが芽生えてきて、「大丈夫だから、なんとかなるから安心しな」と答える声が返ってきた気がしたんです。持ち前の想像力の旺盛さがそこで力を発揮しました。困っている自分と、絶対に大丈夫、という自分が分離した瞬間でした。私は「自分を支える、もう一人の自分」を発見したんですね。何があろうと自分は自分を見放さない。自分を俯瞰できるようになった瞬間でもありました。

―― その「俯瞰する視点」が今に至るまでマリさんを支えているのですね。

マリ 確かにそう。マンガを描く時にもその俯瞰する力が生かされています。

 2つ目に思い浮かぶ転機は、9歳の時に母が香港のオーケストラへの移籍を考え、香港に家族で旅したとき。香港の街や人の勢いを肌で感じ、「世界は果てしなく広い」と思いました。振り返れば、14歳で一人旅をする下地がそこでつくられていたのかもしれません。

 そして最後、3つ目の転機は、27歳で訪れました。

失敗や辛酸をはしょってしまうと自分が不完全になる

マリ 3つ目の転機は、27歳。未婚で子どもを生んだ時ですね。その出産にしても、14歳の一人旅がなければ、起こった出来事なのかどうか分からない。やっぱり、あの一人旅がなければ今の私は存在しなかったでしょう。

―― マリさんは「開けてはいけないと言われているフタは、じゃんじゃん開けるためにある」と言います。これまでの人生で「開けたかったけど開けてないフタ」はあるんですか?