つらいことは全部母の広辞苑に収載されている

―― リョウコさんは、マリさんが大人になってからもよき相談相手なのですか?

マリ 以前までは同居している家族ともめたりすると、電話していましたね。いつも答えは同じ「仕方ないわよ、人生なんていろいろあって当たり前。そんなもんよ」。その一言を聞くだけで不思議と「全部乗り越えられることよ」って聞こえる。恐らく私に言えていない苦労もリョウコはたくさんしてきているはずです。山のように苦労をしてきたから、私がどんなにつらいと言ったって、そのつらいことは、きっと全部彼女の広辞苑に収載されている。どんな悩みも母に告げた途端、鼻クソくらい矮小に感じられてしまうのです。

 泣きそうな声でイタリアから電話しているのに「いやあねえ、何だってそんなに問題が起こるのよ、笑っちゃうわよ面白くて」って本当に電話の向こうで笑っている。決して一緒になって眉間にシワを寄せて悩んだりしません。

(第2回は来週公開。お楽しみに)

取材・文/柳本 操 写真/洞澤佐智子