―― 経済的には、決して裕福ではなかったそうですね。

マリ お金がないのに高い楽器や家具を買ってきて、「一生大切にできる物を選ばないとね!」と。北海道の方々に散らばるヴァイオリンのお弟子さん家族から様々な貢ぎ物(食べ物)はもらえるんです。トウモロコシ、ジャガイモ、鮭、さんま、いくら、乳製品。なんでも家にはありました。

 休日も山へ行きたい、川へ行きたいと子どもたちを誘う。「お金には代えられない楽しみや幸せがあるんだよ」と私たち姉妹は繰り返し言い聞かせられました。彼女の中では、生きる喜びや楽しさと経済が結び付いていない。お金がないと幸せにはなれない、という感覚がないんですね。必要な分だけお金を稼げばいい、と。

―― そのお金への価値観は、マリさんにも受け継がれた、と。

マリ 例えば90年代初頭、経済制裁の最中にボランティアで滞在していたキューバでは、配給のコッペパンが1日に1家族1個でした。夜は電気も止まっちゃう。おなかもすくし不安になりますよね。でも、月明かりの下、誰かがギターやコンガを演奏しはじめれば、自然とそこにいる人々は踊りだす。子ども達は鬼ごっこみたいな遊びで楽しげにかけずり回っていたり、女性たちは夫の愚痴を言っていたりね(笑)。その生活ぶりに、何ともいえない心地よさ、お金に依存せずに生きている人間の健やかさを感じました。お金がないということは恐るるに足らず、母から言われてきたことがそこでも実感されました。

「ケンカ中なのに、突然リョウコが笑い出すことがある。“そもそも、何でこんな馬鹿げたことで言い合ってるのよ私たち。どうかしてるわ”って。たぶん、彼女の上にはドローンが飛んでいて、上から見渡している。で、その映像が映し出された瞬間に笑いスイッチが入っちゃうんでしょうね」
「ケンカ中なのに、突然リョウコが笑い出すことがある。“そもそも、何でこんな馬鹿げたことで言い合ってるのよ私たち。どうかしてるわ”って。たぶん、彼女の上にはドローンが飛んでいて、上から見渡している。で、その映像が映し出された瞬間に笑いスイッチが入っちゃうんでしょうね」