入院して一人病室の天井を見つめて思ったことは、「人間死ぬ時は一人。あの時トライしておけばよかったという後悔は残したくない」ということ。「後悔しない自分らしい人生」。それが佐藤さんの目的地となったのです。

 がんを乗り越えた佐藤さんは、その3カ月後の6月、行きたかったチュニジア南部を旅します。そして「何かを見つけたい」という思いが通じたのでしょう。旅の最終日に、「寄贈者」が登場します。旅の間お世話になった運転手さんが、家族が作ったというキリムをプレゼントしてくれたのです。佐藤さんはその色彩の見事さに目を奪われ、帰国時の機内で「まだ知られていないチュニジア産キリムを日本に紹介しよう!」と決意します。

 とはいえ当時は言葉も話せず、商売も未経験。「何か得られるかも」と思い、ガイドブックから情報を得た神戸のチュニジア雑貨店「ダール・ヤスミン」へ東京から3時間かけて足を運んだところ、その店頭には偶然にもガイドブックの著者で店の経営者でもある道上朋子さんが、本拠地チュニジアから戻ってきていました。「ともだち」との出会いです。

ゼロから「ともだち」との旅が始まる

 佐藤さんのライフシフトはここから一気に進みます。秋には事務職を退職し、長期滞在を可能にしてチュニジアへ渡り、道上さんとの協働を開始。12月には何のスキルも知識もないままパソコンを買うところから始めて、チュニジア産キリムを販売するウェブショップを立ち上げてしまったのです。

 それから5年、佐藤さんはチュニジアと日本を往復しながら、キリムの輸入販売・製品開発のみならず、織り手である女性たちやその子どもたちの支援など、チュニジア全体の振興に寄与する社会起業家として奮闘中です。

左/キリムを抱える佐藤さん 右/キリムの織り手は女性が多く、その子どもたちの支援にも力を入れている
左/キリムを抱える佐藤さん 右/キリムの織り手は女性が多く、その子どもたちの支援にも力を入れている