「正しい散骨を」 協会を立ち上げ、カフェもオープン

 「今振り返ると、経営危機は2度ありました」と村田さんは言う。

 1度目はもちろん、6件しか受注がなかった初年度。そして2度目が、東日本大震災が発生した2011年だった。

 「電話がひっきりなしに鳴って、どれもが入っていた予約のキャンセルでした。津波で建物も人もすべてが流される映像は強烈で、さらに原発事故で放射能に汚染された水が海に流れ、海洋散骨なんてとんでもないという雰囲気。夏までは船がほとんど出せませんでした」

 しかし同時に「あの震災の日から、多くの人の心の中に『確かなものなんて何もない』という意識が芽生えたのではないでしょうか。死というものが身近になった出来事でもあったと思います」。

 そんな中で、散骨について本を書いたことが1つの転機になった。

 「散骨に関する書籍はあまりないという印象があり、周囲からのリクエストもあって、書こうと思いました。『お墓に入りたくない! 散骨という選択』(朝日新聞出版)を出版してから、風向きが少し変わってきました」

 本は、散骨に関する誤解を解き、さまざまな疑問に答え、正しく知ってもらうための基本的な知識をまとめた。2014年には「正しい散骨を行う」ことを目標に、日本海洋散骨協会を立ち上げた。

 散骨について相談されることが増えてきたため、2015年、「BLUE OCEAN CAFE」を東京都江東区の住吉にオープンした。散骨だけでなく終活そのものを知り、生前のライフデザインまでを考えるための場として、異業種からも注目されるようになっている。

 2019年、ハウスボートクラブが手掛けた海洋散骨は約600件。12年前の100倍に上った。

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取材・文/大崎百紀 写真/都築雅人