「もう笑顔にはなれない…」仕事をやめようかと悩む

 「手術が終わってみたら、経験したことのないような痛みとしびれがありました。体も動かせない。退院まで毎日、『先生、この痛みは、しびれはいつ治るんですか』と尋ね続けましたが、医師の答えは『治る人もいるけど治らない人もいる』。もしかして自分は治らない人なんだろうかと不安が募りました」

 退院して自宅に戻ると絶望感が湧いてきた。「体が痛くて簡単なこともできない。だるくて疲れてしまう。このまま元の生活に戻れなかったらどうやって生きていくのか、悪いほうにばかり考えてしまいました」

 痛みとしびれを何とか改善しようにも、「退院してしまうと病院はリハビリをしてくれない。整形外科に行っても乳がんの人のリハビリはできないと言われ、スポーツクラブに行ってもがんの人は受け入れできないと言われてしまいました」。

 このとき、笑顔になれない人の気持ちが初めて分かったと広瀬さんは言う。「『もう表情研究の仕事をする資格はない、やめようと思う』とマネジャーに相談しました。マネジャーには『こういう状況だからこそ、笑顔になれるということを示して』と励まされましたが、仕事として続けるべきかをものすごく悩みました」

 もう以前のように元気に働くことができないと落ち込んでいたとき、偶然目にした雑誌に、米国のフィットネスの記事が載っていた。Moving For LifeというNPOが、がん患者向けに運動の指導を行い、体の回復や社会復帰を支援しているという内容だった。

 「それを読んで、『自分の体は自分で治すんだ!』と、希望の光が見えたんです。すぐに一般の運動教室に行って体を動かしてみたら、気持ちが明るくなりました。そして、『絶対にMoving For Lifeから直接、指導を受けたい!』と思いました」

 日本にはまだ前例がほとんどない、がん患者向けの運動療法。それを学ぶ前に、広瀬さんはまずフィットネスの専門知識を身に付けようと決意した。