何も言わずハグして「おかえり」とひとこと

 2010年4月、初回の出演の1週間前に母が膵臓(すいぞう)がんで他界。61歳だった。「完治が難しいことは分かっていました。がんが見つかって10カ月後でしたが、入院は最後の17日間だけ。その期間は新番組のロケが始まっていたので、事情を言ってロケの途中に病院に立ち寄ったりしながら、最期は父と2人でみとることができました。その時間をもらえたのはありがたかった」

 短い忌引を取り、すぐに職場に復帰。朝6時に出勤すると、ロッカールームに居合わせた有働アナが何も言わずハグして、「おかえり」とひとこと言ってくれた。「その場に行くまではいろいろな思いがありましたが、そのひとことでうまく気持ちを切り替えることができた。だから有働さんには本当に感謝しています」。その後は同じようにがんで母親を亡くした有働さんと一緒に、番組でがんの情報を発信することもできた。

 「母はいつも明るく、太陽みたいにキラキラした人でしたから、最期まで前向きで。人生は一度きりだから思い切り生きるのよ、と言い残してくれた。その姿を見たことで、命ある限り生き切ることの大切さを教えてもらえました。心の穴は埋められないけれど、穴が開いたまま生きていけばいいと思ったら少し楽になった。失うことは得ることでもあると気付かされました」

 母が亡くなった後、残された父は(母方の)祖母と2人暮らしに。祖母が亡くなるまでの5年間は、父が祖母の面倒を見ていた。「それまで仕事一筋だった父が祖母をみとって一人暮らしになったときに、父のケアをしてあげたいという気持ちが芽生えました。母が早く亡くなった分、父には長生きしてもらいたい。自分はこれから、何を大切にして仕事をしていけばいいのか。考えるようになりました」

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取材・文/竹下順子(日経xwoman ARIA) 写真/鈴木愛子、内藤さん提供