『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』(日経BP/共訳)『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』(ダイヤモンド社)など、話題のビジネス書の翻訳を次々と手掛ける関美和さん(54歳)。実は、本格的な翻訳家としてのキャリアは10年ちょっと。それまでは外資系投資顧問会社でファンドマネジャーとして活躍していた。子どもにも恵まれ、華々しい経歴を持つ関さんだが、45歳で突然、プライベートのどん底を味わうなど、その歩んできた道は平たんではなかった。

(上)人生の転機は45歳のどん底離婚 ←今回はココ
(下)死ぬまでにやりたいことリストに爆進中

 担当した本は軒並みベストセラー、業界では引っ張りだこの人気翻訳家として活躍中の関美和さん(54歳)。これまでに手がけた本は、約50冊。ベテラン翻訳家かと思いきや、関さんが本格的に翻訳を始めたのは、43歳の時。それまでは、外資系の投資顧問会社でファンドマネジャーを務めていた。

翻訳家の関美和さん。業界では引っ張りだこの人気だ
翻訳家の関美和さん。業界では引っ張りだこの人気だ

ファンドマネジャー時代に出合った1冊の本

 翻訳の仕事を始めたきっかけは、40代で出合った1冊の本。幼い頃から読書好きで、日本語、英語問わず多くの本を読んでいた関さんの心を捉えたのが、英作家アリソン・ピアソン(Allison Pearson)の『I Don’t Know How She Does It』(邦題:『ケイト・レディは負け犬じゃない』)だった。「主人公は2児の子育てをしながら投資顧問会社に勤務するファンドマネジャーの女性。彼女が仕事と子育ての間でジタバタし、悩み、罪の意識を持ちながらも、なんとか人生を乗り切っていく姿をコメディータッチで描いた小説です。その頃の自分と重ね合わせて、夢中になって読みました」

 暗記してしまうほど何度も読み返すうち、関さんの中に「どうしても自分で翻訳したい」という欲望がむくむくと沸き上がった。もともと帰国子女でもなく、特別な英語教育を受けてきたわけでもなかったが、ハーバード・ビジネススクールや海外でのビジネス経験を経て、当時の関さんは英語に自信が持てるようになっていた。思い切って日本の出版社に「翻訳させてほしい」と企画を持ち込んでみたが、既に翻訳が終わり刊行に向かっていることが判明。望みはかなわなかったが、その後も「翻訳」への思いは断ち切れず、投資顧問会社で支店長を務めながら、出版社や版権エージェントに自ら売り込み、出版候補の作品を下読みして要約するリーディングの仕事を始めた。その後、ハーバードビジネスレビューの論文の翻訳などの仕事を請け負うようになる。

 小さな実績を積み重ね、徐々に大きな仕事を依頼されるようになった2007年、43歳の時に思い切って、勤めていた投資顧問会社を退職した。『スターバックスを世界一にするために守り続けてきた大切な原則』で本格的に翻訳家デビューし、その後、約10年の間に、ビッグタイトルを含む50冊近い作品の翻訳を手掛けたのだ。