「自分のブランドを作る・動かすということがどういうことなのかを、経験してみたかったんです。ブランド事業で副収入を得ることが目的ではなかったので、ライセンス料はいただかない分、よりリーズナブルな価格で消費者に良い商品を届けることを目的としていました。商品企画などを自由にやらせてもらえたことは良い経験になりました」

 この時に得た知識やブランディングに関する考え方が、職人として独立し、自身の漆器ブランドを運営する上でも役立っているという。

2〜3年食べていける資金をため「今だ。辞めよう」

 ベルーナに6年間勤めた後、小島さんは、リクルート(現リクルートホールディングス)へ転職している。

 「将来、職人として独立することを見据えて、新規事業の立ち上げに携わりたいと、リクルートに転職を決意したのですが、実際に配属されたのは通販の部署でした(笑)。

 希望の部署ではありませんでしたが、プロジェクトの考え方や仕組みづくり、目的に対してどのように指針を立て実行していくかといったビジネススキルを習得できたことは、職人として独立し、作品をどのように消費者へ届けるかという仕組みを考える上で、とても役立ちました」

「通販業界での経験は、独立後にすごく役に立ちました」(小島さん)
「通販業界での経験は、独立後にすごく役に立ちました」(小島さん)

 転職から4年が経過した頃、会社員として、怒とうの日々を送る小島さんに転機が訪れた。島根の実家から、父が倒れたと連絡が入ったのだ。

 「もともとは会社員と漆職人を兼業しながら定年を迎え、60歳で職人として独立しようと考えていましたが、会社員としての仕事は激務で、とても漆職人と兼業できるような状態でもありませんでした。それに加えて、父が倒れるという出来事に直面し、60歳から職人を始めるのでは遅いなと感じたんです。職人1本でも2〜3年は食べていけるだけの資金がたまっていたこともあり『今だ。辞めよう』と、迷いなく決意することができました」

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会社員から漆職人に スーパーのトイレで泣いた独立直後

取材・文/板倉理紗 構成/磯部麻衣(日経xwoman ARIA) 写真/鈴木愛子