会社員を経験後、塗師(ぬし)として制作活動を行いながら、漆文化の普及を目指し、体験教室の運営といった活動を精力的に展開する小島ゆりさん(45歳)。松江藩御抱え塗師としての伝統を紡ぐ由緒ある家に生まれながら、ユニークなキャリアをたどった小島さんが、漆職人として目指すものとは? 上編では小島さんのベースを培った幼少期から会社員時代について話を聞いた。

(上)東大→通販会社→漆職人 独立に生きたビジネススキル ←今回はココ
(下)会社員から漆職人に スーパーのトイレで泣いた独立直後

軽くて強い漆器は、普段使いできるもの

 漆職人の小島ゆりさんが生み出す漆器は、朱色や黒といった伝統的なものだけでなく、鮮やかな緑色、スモーキーなグレーなどモダンな色使いが目を引く。レースに漆を塗り、純銀粉を蒔絵(まきえ)した、軽くて丈夫なオリジナル漆アクセサリーも人気だ。できるだけ手に入れやすい価格設定、タフさ、現代的なデザインを意識した小島さんの作品には、こんな思いが隠れている。

1975年島根県松江市生まれ。松江藩御抱え塗師十二代目漆壺斎(しっこさい)継承者
1975年島根県松江市生まれ。松江藩御抱え塗師十二代目漆壺斎(しっこさい)継承者

 「職人として活動をする中で、世間では漆の良さや魅力を知っている人が本当に少ないことを目の当たりにし、『このままだと、漆を楽しんでくれる人がどんどんいなくなるな』と危機感を募らせるようになりました。

 漆器は高価で、とにかく取り扱いや手入れが大変。持っていてもめったに使わないといった声を多く耳にしますが、実はパスタやカレーのような油物を載せても大丈夫なんですよ。日々のお手入れは食器用中性洗剤で洗って、自然乾燥するだけで十分。軽くて、強くて、落としても割れない。日常でこそ使ってもらいたい素材なんです。漆の魅力をみんなに知ってもらうことが私の活動の一番の目標です」

小島さん作の漆器の皿と湯飲み
小島さん作の漆器の皿と湯飲み
小島さん作の漆器の皿と湯飲み

 手に取りやすいお椀(わん)や箸、リメイク漆器の制作にも取り組む小島さんが、漆職人として独立し、このような目標を掲げるまでにはどのような道をたどってきたのだろうか。