超音波技術を使った、体に負担が少ない乳がん検診装置の開発会社を夫の隆さんと共に起業した東志保さん。CEO就任への背中を押したのはベンチャーキャピタル経営者の言葉だった。夫婦で経営する上でのカギは、目標とモチベーションを共有して二人が常に同じ方向を向いていることだという。

(上)「君は社長に向いている」 乳がん検診装置、夫婦で起業
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 超音波画像技術によって、乳房に触れることなく高精度の乳がん検診を可能にする。東京大学で隆さんが発足した研究プロジェクトに志保さんも加わって、開発装置のコンセプトを明確にしていった。

 2016年に隆さんは東大医学部の教授に就任。プロジェクトは起業に向けてさらに加速したが、代表となる人は決まっていなかった。

 「最初はどういう人が経営者としていいのか分かりませんでした。医師で経営が分かるという人を紹介していただいたり。スタートアップの業界の人や、起業支援プログラムの人脈からも紹介していただいたりしました」。しかし、一からスタートする事業に熱意を持ってフルコミットできる人は見つからなかった

 資金調達しようにも社長が空席では始まらない。「資金が調達できなくて起業の動きが止まるならともかく、社長がいなくて止まるのは残念な状態なので。経験やスキルの不足はひとまず置いて、試しに私が社長として投資家を回ることにしてみました」。するとその直後に、最初の資金調達が決まった。

 「著名なベンチャーキャピタリストの方に、社長を務めることについてストレートに相談したこともあります。『経営者としての経験やスキルは必ずしも最初から必要なわけではない』という答えで、その後、実際に出資もしていただきました。起業のシーズ(種子)を持っている夫と、お金を持っている投資家の方の両方が、社長は私でいいと言うのなら、やってみようと決心がつきました」

リリーメドテックCEOの東志保さん。「起業は誰もが平等に持っている権利。自己評価で能力を決めつけず、チャレンジしてみる価値はあります」
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