体に負担が少なく、高精度で乳がんの検査ができる画像診断装置を開発する医療機器ベンチャー、リリーメドテック。CEOの東(あずま)志保さんは、夢見ていた航空宇宙研究者のキャリアを断念した後、医療用超音波技術の研究者である夫と共に起業を目指し、「想定外」だったCEOに就任した。起業への情熱と逆境でのサバイバル能力は、10代の頃から経験した苦難によって培われた。

(上)「君は社長に向いている」 乳がん検診装置、夫婦で起業 ←今回はココ
(下)夫婦で経営、一番大事なのは思いやりよりも「共有」

 働き盛りの年代の女性にとって年々リスクが高まっている乳がん。だが、乳がん検診で一般的に使われているマンモグラフィーは撮影時の痛みや放射線被ばくの懸念から、敬遠されることも少なくない。乳腺が発達している比較的若い年代の女性の場合、画像では乳腺とがんの判別が難しいという課題もある。

 乳がん検診を受ける人に負担が少なく、しかも高精度の画像診断が可能な、医療用超音波技術を使った装置を開発しているのが東京大学発のベンチャー、リリーメドテック。CEOの東志保さんは、医療用超音波技術を長く研究してきた夫でCTOの東隆さんと一緒に、2016年にリリーメドテックを起業した。

リリーメドテックCEOの東志保さん。「働き盛りの世代の女性やその家族が、乳がんで苦しまないために貢献したい」
リリーメドテックCEOの東志保さん。「働き盛りの世代の女性やその家族が、乳がんで苦しまないために貢献したい」

「社長をやらないの? 向いているのに」夫が見抜いた適性

 医療用機器の分野は国内外ともに大手メーカーがほとんどで、新しい製品を開発するベンチャーの存在は珍しい。開発には専門知識と技術、それに多額の投資が必要なためだ。

 夫の研究が生んだ技術シーズに大きな可能性を感じ、起業に加わった志保さんだったが、自らが経営者になることは全く想定していなかった

 「かつては私も研究者として生きていくつもりでキャリア形成をしていましたし、経営の経験も資金繰りなどの知識もない人間には無理だろうと、ずっと固辞していました。そんな私に対して、実は会社を立ち上げるかなり前から、夫は『社長をやらないの? 君は向いているのに』と言っていたんです」

 研究者である夫の隆さんが見抜いていた「適性」は、それまでの人生で経験したたくさんの苦難が培ったものかもしれない、と志保さんは言う。