「おらがまち」の地酒を求める人々の声に応えたい

 「猛吹雪の中、町の名水を必死で運んできた彼らを見た瞬間、『みんな自分の地域の地酒がほしいんだ』と分かったんです。それまでは、『たとえ酒蔵が減ろうと、市場にはさまざまな日本酒が溢(あふ)れている。だったら、うちの蔵が頑張り続ける意味なんてない』と思ってきました。ただ震災後、近隣の酒蔵は廃業し、金水晶酒造店は福島市のみならず、伊達市、伊達郡も含めたエリアで唯一の造り酒屋になってしまった。日本酒は地域の祭りや神社の神事に欠かせないもの。うちの蔵が廃業すれば金水晶のみならず、周辺地域の地酒もまるごとなくなってしまいます」

 「食べていけなくなるかも」などといったぼんやりした不安だけで、127年続いてきた蔵をなくすわけにはいかない……。年の瀬のこの出来事をきっかけに、斎藤さんは家族と離れて福島に戻り、蔵を継ぐことをついに決意した。

斎藤さんがブランディングを行う前は「昭和風のデザイン」だったラベルや外箱は、シンプルな印象に一新
斎藤さんがブランディングを行う前は「昭和風のデザイン」だったラベルや外箱は、シンプルな印象に一新

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取材・文/籏智優子 構成/市川礼子(日経xwoman ARIA) 写真/阿部勝弥