家族の思い出、昔住んでいた土地、先祖が乗り越えてきた苦難。どこの家にもあるルーツや歴史を調査して記録に残すことを事業化した吉田富美子さん(58歳)。40代後半のとき、病気の父に「昔のことを話してほしい」と聞き取って作った父の半生記がその発端でした。

(上)家族の歴史を形に残す 研究職が50歳で起業した新事業 ←今回はココ
(下)苦難を乗り越えた先祖の物語は今を生きる人の「お守り」

 ここ数年、家系図作りや家族のルーツ探しの人気が高まっている。自分の先祖はどんな人で、どこに住み、何をしていたのか。歴史好きのシニア層だけではなく、高齢の親から昔の話を聞いて興味を持つ子や孫の世代も少なくない。

 一般の人から依頼を受けて、その家族のルーツや歴史を調べ、家系図や書籍にするファミリーヒストリー記録社を2013年に起業したのが吉田富美子さん(58歳)。食品メーカーの研究者・管理職として28年勤め、50歳で退社。全く畑違いの事業を一人で始めた。

 その調査ぶりは徹底している。戸籍謄本を取り寄せ、そこからもっと古い戸籍をたどり、関係資料を探し、現地に足を運んでの調査や聞き込みなど。1件の調査に1年以上かかることも多い。

 わずかな手掛かりを基に、点と点を結んで線を描いていくような、探偵のような仕事。つい素人考えで「歴史好きなら楽しい仕事かも」と思ってしまったが、甘かった。「時には調べても調べてもなかなか情報が出てこない難しいケースもあります。楽しいのは最初だけかもしれません」。プロとして依頼を受けたからには、調べたけれど分かりませんでしたという答えは絶対にあり得ないのだ。

 畑違いとはいえ、仮説を立ててあらゆるデータを探し、事実関係を追究していくスキルは研究職で培ったものに通じる。吉田さんが50歳での起業に至った背景にはいくつかのきっかけがあった。

食品メーカーでは研究開発一筋だった吉田富美子さん。50歳で「家族の歴史を形にする」会社を起業した
食品メーカーでは研究開発一筋だった吉田富美子さん。50歳で「家族の歴史を形にする」会社を起業した