契約書の不備を突かれ、追い詰められる中小企業の姿を目の当たりにし、リーガルテックに解決策を見いだした藤田美樹さん(45歳)。大手法律事務所のパートナー弁護士という恵まれた地位を捨て、契約書AIレビューサービス事業を起こすことを決意する。18年間の弁護士生活で培った人脈や経歴を活かし、起業にこぎつけた彼女が得た、仕事の喜びとやりがいとは?

(上)中小企業を紛争から守りたい リーガルテックで起業を決意
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双子はまだ1歳 「今じゃなきゃだめ?」

 企業紛争専門の弁護士として活躍する中、リーガルテックサービスの提供により、中小企業が紛争に巻き込まれることを防ぎたいと考え始めた藤田さん。とはいえ、起業やテックは門外漢。そこで経営やAI(人工知能)に詳しい知人らに、「こんな事業をやりたいんだけれど、どう思う?」と片っ端から聞いてみることに。

 その一人が、外資系コンサル会社でベンチャー投資を行っていた大学時代の同級生。

 「彼に話すと『自分も何かしらのAI事業を起こしたいと思っていた。リーガルテックは将来性も社会的意義もあり、必ず伸びる。テックに詳しい技術者を仲間に迎え、3人ですぐに起業しよう』と言われて。あまりの急展開に『うれしいけど、今?』と驚きました」

 戸惑ったのも無理はない。藤田さんは4児の母。長女は高校生、次女は小学生になっていたが、一番下の双子は当時まだ1歳だったのだ。

 「双子の育児は言葉を絶するほど壮絶です。ただ『2年後じゃだめ?』と聞くと『起業はタイミングが大事。やるなら競合も少ない今だ』と言われ、腹をくくりました」

「今やるか、やらないかという選択だったので、エイヤ!と飛び込むことを決めた感じです」と振り返る藤田さん
「今やるか、やらないかという選択だったので、エイヤ!と飛び込むことを決めた感じです」と振り返る藤田さん

 周囲には、努力の末に築きあげたキャリアを捨て、起業することを心配する友人も少なくなかった。

 「私自身、職場や仕事に不満があったわけではありません。ただ弁護士は会社員と違って異動もなく、若い時に定めた専門分野の領域内で働き続ける。安定はしていても変化のない働き方に新鮮味を感じられなくなっていたんです。まだまだ長い仕事人生、ここらで新しい冒険をするのもいいなと、思いました」

 「同業の夫は、『面白そう。やりたいようにやったら』と言ってくれました。娘たちに事務所をやめて起業すると伝えると、次女に『じゃあ、これからは家にいる時間が増えるの?』と聞かれ、『いやいや、忙しいのは変わらないよ』と答えながら寂しい思いをさせてしまっているんだなと、ちょっと心が痛かったです」