産後2週間で突然襲った生命の危機

 2008年2月に、松本さんは無事に長男を出産した。

 「妊娠経過は順調で、出産もスムーズなスピード安産でした。産後、病室にパソコンを持ち込んで仕事はしていましたが、問題なく退院し、自宅で新生児との生活が始まりました」

 ところが産後14日ごろのこと。突然大きな悪露(=産後に子宮や膣(ちつ)から出る分泌物)の塊が出た。

 「にぎりこぶし大はありました。産院に行って調べてもらい、特に異常はないので様子を見ましょう、ということで自宅に戻りました」

 その2日後の夕方。キッチンに立っていると再び違和感があり、トイレに行ってみると大きな悪露が次々と降りてきた。それが止まらない鮮血に変わり、視界が暗くなってきた。「とにかく携帯電話のところまで歩いていき、手に取ったら倒れてそのまま動けなくなりました。夫に何とか電話をして救急車を呼んでもらい、子どもが泣き続けていたのですが何もできないまま意識が飛びました」

 救急車で産院に運ばれた松本さんは大量の失血で血圧が低下し、危険な状態だった。ベテランの担当産科医も「たくさんお産を診てきたがこんな例は初めて」と言うほど。応急処置をした後、再び救急車で総合病院に転送されることになった。意識がもうろうとする中、手術台の足元で医師と夫が小声で会話をしている。医師の「このままだとまずい。もしかしたら駄目かもしれません」という言葉が妙にはっきりと聞こえたと言う。

 子どもは産院に預かってもらい、松本さんは深夜に総合病院へ運ばれ、原因はやはり不明のまま、さまざまな処置を施された。「しばらくして夜中に意識が戻ると、眠ってしまったら永遠に目が覚めないのではないかと思い、眠れませんでした。死をすぐ身近に感じた長い夜でした」

(下編に続きます)

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取材・文/秋山知子(日経ARIA編集部) 写真/鈴木愛子