マイナスからゼロへ浮上するためのメッセージが必要

 力強いメッセージ本が支持を集める一方で、そうしたメッセージが逆につらいと感じる層もいる。その多くは当時20代の松本さんと同世代の団塊ジュニア、あるいは氷河期世代と呼ばれる女性たち。

 「とにかく真面目で、いろいろなものを抱え込んで心身が苦しくて、誰かのためでないと動けない人たちです。当時、女性読者にアンケートを取ったら、7割以上が自律神経失調症や拒食症、精神的ストレスから来る不調を抱えているという結果に驚きました。仕事で嫌な思いをしても、パワハラという言葉すらまだない頃でした」

 前向きな自己実現メッセージとは真逆の、そうした女性たちに向けたメッセージも必要なのではと松本さんは考えた。「ニュートラルな精神状態が水面だとしたら、水面よりも上にいる人には前向きなメッセージはすごく響くけど、水面下にいる人にはさらに沈んでしまうメッセージになってしまうかもしれない。そうした人たちがマイナスからゼロに向かって元気になっていくためのコンテンツが必要だと気づきました」

 松本さん自身、大学時代に体を壊して落ち込んでいた時期がある。その頃の経験や、周囲の女性へのヒアリングをもとに女性向けの本を中心に手掛けていった。

 14歳の時の「本をつくる人になる」という夢を実現した松本さんは32歳の時に独立。編集者、デザイナー、イラストレーター、出版プロデューサー、作家としてマルチに活動を続けた。同じ頃に妊娠したのをきっかけに、「妊娠は病気ではない」とする社会通念や、特にフリーランスや自営業で女性が働きながら子どもを育てることが困難な社会環境に対して疑問を抱くようになっていた。

真面目で、いろいろなものを抱えこんで傷つき、他人のためにしか動けない。そんな女性へのメッセージが本づくりの原点にある
真面目で、いろいろなものを抱えこんで傷つき、他人のためにしか動けない。そんな女性へのメッセージが本づくりの原点にある