「ありがとう。清水の舞台から飛び降りたけど全身骨折してしばらくは意識不明の重体だった」

 「不死身ですね。やっぱり先輩は私の永遠の憧れです。新しいお仕事もぜったい成功させてくださいね。私も子育てがひと段落したら必ずまた働きますから」

(C)PIXTA
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 手を振って反対側の階段を下りてゆく彼女のキラキラした光を見送り、私も逆のホームへ降りるエスカレーターに乗る。ちらほらと上り側に乗る人たちの表情は希望も絶望も疲労もごちゃまぜで、私は今どんな顔をしているんだろう、と思った。土日をまたいだら、また仕事が始まる。在籍はあと三か月弱。後悔しないよう、来年の今ごろまだ彼女の憧れでいられるよう、唇の端を引き上げた。

文/宮木あや子