「そうよ、私がずーっと作りたかった海外事業部。やっと形になったわ。香港と台湾はもう市場が飽和しとるけど、マレーシアとタイとベトナムはまだ大丈夫じゃないかと思って。成功したら子会社化してアジア全体でフランチャイズにできないかなとも思ってるんだけど、まあとりあえずはその三店舗を成功させてから」

 タブレットにはフロアプランのほかに、現地での宣伝戦略、今後の事業展開の計画が詳細に記されていた。血が騒いだ。

「えー、これは私、担当したかったよ。もし子会社化できたらそっちはやらせて?」

「頼みたいのはやまやまだけど、うちの代理店、代々おたくのライバル会社だからなあ」

「でも子会社化が成功するころ、私会社辞めとるけん」

「……えっ!?」

「はい」

「辞める!? 言っちゃ悪いけど仕事しかないシホが会社辞めて何すると!? まさか今更自分探し!? 言いたくないけど私たち四十歳よ!?」

「独立しようと思ってるの。PRプランナーの資格試験も受かったし、独立してもやっていけそうだってめどがついたから、今年の春に会社は辞める」

文/宮木あや子