美結が小学校に上がってからは、母と同じようなタイプの人たちが他にもいることが分かった。専業主婦が悪いわけではないし、家事や育児を業務として考えれば彼女ほど完璧な仕事をする人を私はほかに知らない。ただ、娘の私はその生き方を望まなかった。家庭以外の世界でも息をしたかったし、母と子は別の人間であることをもっと早く認めてほしかった。自分の力で稼いで自立したかった。

 「大学のこと、まだパパには言わないで、反対するだろうから」

 「……わかった」

 二階へあがってゆく娘の足音を聞きながら、私はひとりコーヒーを淹れる。

 娘が生まれてから五年くらいは「赤子とはこれほど簡単に簡単に命を落としかねない生き物なのか」という事態にたくさん遭遇し、母がなぜ自分をあのように扱ったのか理解はできた。同時に子供の存在によって、自分の行動が制限されることに数えきれないほど怒りや焦りを感じた。けれど、こんなふうにまともな会話を交わせるまで育ってしまえば、やはり産んで良かったと思う。グレる兆行もない。顔も結構可愛いからできれば今で言う「一軍」ふうの女子高生になってほしかったが、クラスでの立ち位置はたぶん「どの軍にも属さないオタク」だろう。でも、ちゃんと生きて、楽しく暮らしてくれていればもうそれでいい。進路のことはしばらく保留しておこう。

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