「そうね。留学してたころよく頼んでたから。あとママが子供のころ、まだ宅配のピザってそんなに普及してなくて、憧れの食べ物だったのよね」

 映画「E.T.」で宅配ピザの存在を知った人は多いだろう。私もそうだ。同映画を観て日本で事業を始めた社長もいる。私が育った土地には私がその土地を離れるまでついぞ店舗展開されず、大学で一年間ロサンゼルスに留学したとき初めて食べられたのだった。今でも宅配ピザの温かい箱を開けると当時の思い出が蘇る。

「留学って楽しい?」

「え、美結もしたい? 英会話学校通う?」

「いや全然。これ以上無駄な勉強するのイヤだ。ねえママ、私、大学行かないとダメかなあ?」

 テスト勉強に嫌気がさした高校生の冗談かと思った。しかし唇からピーマンのきれっぱしを垂らしながらも娘の表情は真剣だった。

文/宮木あや子 イラスト/PIXTA