会社は私を辞めさせたいんだろうな、とは思った。しかし私は意地でも辞めなかった。

(C)PIXTA
(C)PIXTA

 母親が少しでも楽になる商品を。誤飲の危険がなく、安全性の高い商品を。生まれてこのかた一切の家事をやったことのない男の、ある意味では赤子レベルの脳でも使い方が理解できる商品を。「手伝うよ」から「やって当たり前」へ変わる商品を。求められてもいないのに企画を出しつづけて十年後、ようやく私に再び仕事が振られた。企画が通ったのだった。



 ボルジギン氏は三日間滞在し、良い仕事をしましょうね、と固い握手を交わし帰って行った。久しぶりに定時ちょっと過ぎに会社を出て、家に帰っている途中、夫から「飲み会が入りました、ご飯いりません」と連絡が来たため、夕飯は宅配のピザに決定した。既に帰宅していた美結と一緒にどれを頼もうか二十分くらい悩み、腹ペッコペコで眩暈がしてきたころ、ようやくLサイズのピザとサラダとチキンが届いた。

「ママ、ピザ好きだよね。出前頼むとき寿司とか選ばないよね」

 伸びたチーズを指ですくいながら思い出したように美結が言う。基本、うちでは食事中にテレビを観ない。参考書や教科書の持ち込みもさせない。家族で会話できるのが朝食の十五分間と夕飯の一時間くらいだからだ。せめてこの時間くらいは全力で子供のために時間を割きたい。 

 次ページ → ママ、私、大学行かないとダメかなあ?