ヨウコ(48歳)
外資系日用品メーカー
長野県出身
既婚・夫と高校一年生の娘と三人暮らし

 毎年気づくと梅が終わりかけている。十六年前、娘が生まれたとき夫の両親がうちの庭に植えた白梅と紅梅。実は梅酒やジャムにし、豊作だった年は近所に配る。終わりかけの花を見て、今年も綺麗だなと思う反面、また収穫しなきゃなあ、とめんどくさくもなる。

 朝の六時、アメリカでは昼の一時、私はつながっていたスカイプを切り、PCを閉じた。毎朝三十分、五時半からオンライン英会話を習っている。半年ほどつづけていたらだいぶ英語の勘は戻ってきた。今日の相手はオレゴン州に住む二十五歳の女性で、働きながらも小遣い稼ぎのためにこのバイトをしており、これまでも何度か画面越しに顔を合わせている。発音に訛りがなく、最近のビジネスシーンでよく使われる略語やスラングなども詳しく教えてくれるのだが、彼女が「参考になるから観なよ!」と勧めてくれるアメリカのドラマはことごとく私の趣味に合わなくて(『リベンジ』『ゴシップガール』『スキャンダル』など)、ジェネレーションギャップの有無を確認したくとも、内容的に十六歳の我が子にはあまり見せたくない。どれも。

(C)PIXTA
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 頭を切り替えてキッチンに向かう。冷蔵庫に入っているたくさんの容器から少量ずつおかずを取り出してふたつの弁当箱に詰め、フライパンで卵とベーコンを焼きながら電子レンジで野菜を蒸し、寒さで石のようになっているバゲットにパン切り包丁を入れる。二十分くらいののち、夫と美結が二階から下りてくる。冬は寒い。なかなか布団から出られず、朝食を抜いて学校に行きがちな娘を、私たち夫婦はご褒美で釣った。三学期が終わるまで毎日七時に起きて朝ごはんを食べて学校に行けたらランドの年パスとキンハーⅢを買ってあげる、と。効果は抜群で、寝不足でも生理でも、頑張って下りてくるようになった。モノで釣るのを良しとしない親もいるが、大人だって対価が支払われなければ働きたくないのと同じ。この程度の出費で双方のストレス(叩き起こす・起こされる)がなくなるのだから、かなりお得である。

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